はじめに ─ 「来年は何する?」に、あなたは即答できますか
年末が近づくと、誰かに聞かれることがあります。「来年はどんな年にしたい?」「来年の目標って決めてる?」
このとき、パッと答えが出てくる人と、「うーん、特に……」と言葉に詰まってしまう人がいます。実はこの差、性格や意志の強さの問題ではありません。単純に、年間目標の「立て方」を知っているかどうかの差なのです。
以前の記事では、目標設定に最適な「タイミング」について、脳科学と心理学の研究をもとに詳しくご紹介しました。

そしてつい先日は、2027年から筆者自身がフランクリン・プランナーからトラベラーズノートへ乗り換えることについて、手帳選びの視点からお話ししました。

今回はその続編として、「では具体的に、年間目標はどうやって立てればいいのか」という一番知りたいところを、じっくり掘り下げていきます。いつ立てるべきか、今年の手帳をどう使って来年の目標のヒントを見つけるか、そしてトラベラーズノートのマンスリーと週間レフトを使って、その目標をどう日々の行動に落とし込んでいくか。筆者自身が2027年から実践しようとしている方法を、具体例と海外の研究をまじえながらお伝えします。
長い記事になりますが、この記事を読み終える頃には、「来年は何する?」と聞かれても、きっと迷わず答えられるようになっているはずです。
第1章 ─ 年間目標を立てるということは、1年分の「地図」を手に入れること
年間目標というと、なんだか大げさに聞こえるかもしれません。しかし、これは「絶対に達成しなければならない義務」ではなく、1年間の行動にざっくりとした「地図」を与えてあげる作業だと考えると、少し気が楽になります。
地図がない状態で旅に出ると、なんとなく歩いているうちに、気づけば見覚えのない場所に立っていた、ということが起こります。逆に、大まかな地図さえあれば、多少道に迷っても「だいたいこっちの方向」という感覚を保ったまま進んでいけます。
年間目標の役割も、これとまったく同じです。1月から12月まで、365日分の小さな選択が積み重なった先に、あなたはどこに立っていたいのか。その大まかな方向を、年の変わり目に一度だけ、丁寧に描いておく。それが年間目標設定という作業の正体です。
そしてこの「地図を描く」という作業は、いつ行うかによって効果が大きく変わることが、これまでの記事でもご紹介してきたとおりです。ここからは、その「いつ」の部分を、手帳という現実的な道具と結びつけながら見ていきます。
第2章 ─ 年間目標を立てるベストタイミングは「来年の手帳」が並び始める季節
書店や文具店の店頭に、来年の手帳がずらりと並び始める季節があります。日本では、だいたい9月ごろから、その気配が漂い始めますよね。
実はこのタイミング、年間目標を考え始めるのに、とても理にかなっています。
以前の記事でもご紹介したとおり、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの行動科学者キャサリン・ミルクマン氏らの研究によって、「フレッシュスタート効果」という現象が明らかになっています。新しい年、新しい月、誕生日といった「節目」のタイミングに差しかかると、人は過去の失敗や停滞をいったん脇に置き、大きな視点で自分の生活を見直しやすくなる、というものです。
そして、この「節目」を最初に意識させてくれるのが、実は「来年の手帳」との出会いなのです。真新しい表紙の手帳を手に取り、まっさらなページをめくった瞬間、多くの人が「来年はこうしたいな」という気持ちを、少しだけ思い浮かべた経験があるのではないでしょうか。あの感覚こそが、フレッシュスタート効果の入り口です。
以前の記事の第6章でも触れましたが、年間目標設定の最高のタイミングは、実は1月1日ではなく「12月の中旬から下旬」だとお伝えしました。年が明けてバタバタする前に、余裕を持って来年の方向性を決めておく、という考え方です。
ここに、手帳選びの季節をうまく重ねてみましょう。
- 9月〜10月 来年の手帳をリサーチする「仕込みの時期」。この段階では、まだ目標を決めなくてOKです。今年1年、自分がどんな書き方をしていたかを振り返るくらいの、軽い気持ちで十分です。
- 11月 来年の手帳を実際に選び、手に入れる時期。手元に「今年の手帳」と「来年の手帳」がそろい始めます。
- 12月中旬〜下旬 2冊の手帳を並べて、いよいよ本格的に来年の目標を考える「手帳会議」を開く時期です。
つまり、「来年の手帳を選ぶ」という、多くの手帳好きが毎年当たり前のようにやっている行為そのものが、フレッシュスタート効果を利用した、優れた目標設定のウォーミングアップになっているというわけです。手帳選びを楽しみながら、同時に来年への心の準備も進めている。これは、なかなか贅沢な習慣だと思いませんか。
第3章 ─ 今年の手帳と来年の手帳で「手帳会議」をしよう
さて、ここからが本題です。12月、今年の手帳と来年の手帳がそろったら、ぜひやってほしいのが「手帳会議」です。
手帳会議と聞くと、来年の手帳をどう使うかを決める場だとイメージする方が多いかもしれません。しかしここでご提案したい手帳会議は、それだけではありません。「今年の手帳を振り返りながら、来年の目標を一緒に考える」ための時間として使います。
なぜ「今年の手帳」を見返すことが重要なのか
意外に思われるかもしれませんが、来年の目標を考えるときに一番頼りになる資料は、実は真新しい来年の手帳ではなく、書き込みだらけの「今年の手帳」の方です。
そこには、あなたが今年1年間、実際に何にエネルギーを使い、何を後回しにし、何にワクワクし、何にストレスを感じてきたかという、正真正銘の一次データが詰まっています。頭の中だけで「来年はこうしたい」と考えると、どうしても直近の気分や、他人と比較して焦っている感情に引っ張られがちです。しかし、1年分の記録という客観的な材料があれば、もっと地に足のついた目標を描けます。
手帳会議の具体的な進め方(所要時間の目安 60〜90分)
ステップ1 今年の手帳を最初のページから最後のページまでざっと眺める(20分)
細かく読み込む必要はありません。ペラペラとめくりながら、「あ、こんなこと書いてたな」「この時期、忙しかったな」というくらいの感覚で、1年間を映画の予告編のように早送りで見返します。
ステップ2 「印象に残った月」を3つ選ぶ(10分)
良い意味でも、そうでない意味でも構いません。なんとなく印象に残っている月を3つ選び、その月に何があったのかを簡単にメモします。忙しすぎた月、逆に何もできなかった月、思いがけず楽しかった月など、パターンはさまざまです。
ステップ3 「今年、頭の中で繰り返し考えていたこと」を書き出す(15分)
手帳に直接書いていなくても構いません。「今年、なんだかんだずっと気になっていたこと」を、思いつくままに書き出します。「英語、そろそろちゃんとやらないとな」「体力落ちたな」「家族との時間、もっと取りたいな」といった、頭の片隅にずっとあったモヤモヤは、来年の目標の非常に強力な候補になります。
ステップ4 来年の手帳の白いページを開き、「来年はどんな1年にしたいか」を短い言葉で書く(15分)
ここではまだ、細かい数値目標まで決める必要はありません。「挑戦の年にしたい」「体を整える年にしたい」というくらいの、方向性を示すキャッチコピーのようなもので十分です。
ステップ5 コーヒーやお茶を飲みながら、2冊の手帳を眺めて余韻に浸る(10分)
意外と大事なのが、このステップです。効率だけを求めるなら省略できますが、今年1年頑張った自分をねぎらい、来年への期待を静かに膨らませる時間を取ることで、手帳会議そのものが「来年も頑張ろう」という前向きな記憶として脳に刻まれます。
「もし目標を達成できなかったら」を先に考えてみる
手帳会議のステップ4のあと、余裕があればぜひ試してほしい方法があります。アメリカの意思決定研究者ゲイリー・クライン氏が企業のプロジェクト管理の現場で広めた「プレモータム(事前検死)」という手法です。
これは、1989年にウォートン・スクールのデボラ・ミッチェル氏らが行った実験がもとになっています。ある出来事について、「これから起こるかもしれないこと」として考えるグループと、「すでに起こったこと」として未来を振り返るように考えるグループを比較したところ、後者のグループの方が、その出来事が起こる具体的な理由を正しく挙げられる割合が、約30%も高かったというのです。この現象は「プロスペクティブ・ヒンドサイト(予見的振り返り)」と呼ばれています。
これを年間目標に応用すると、こうなります。来年の目標を立てたら、あえて「来年の12月31日、この目標が達成できなかったとしたら、その理由は何だろう」と想像してみるのです。「結局、平日は仕事で疲れて手をつけられなかった」「最初の1ヶ月は頑張ったけど、そのあと失速した」など、失敗の理由が具体的に思い浮かんだなら、それはそのまま、来年やってくる障害のリストになります。障害が先に分かっていれば、対策もあらかじめ手帳に書き込んでおくことができます。
手帳会議は、ただ夢を語り合う楽しい時間であると同時に、こうした一手間を加えることで、実行力のある目標設定の時間へと変わっていきます。
第4章 ─ 具体的にどんな目標を立てるべき? 今年の手帳から来年の目標を考える方法
手帳会議で材料がそろったら、いよいよ具体的な目標に落とし込んでいきます。ここでつまずきやすいのが、「どんな目標を、どんな言葉で書けばいいのか分からない」という悩みです。
まずは「ジャンル」で目標の抜け漏れを防ぐ
いきなり1つの目標に絞り込もうとすると、視野が狭くなりがちです。以前の記事でもご紹介した「3つのジャンル」の考え方を、ここでも活用しましょう。
- 仕事・キャリア スキルアップ、資格取得、売上、プロジェクトの完了など
- 健康・体・エネルギー 運動習慣、食生活、睡眠、体重など
- 人間関係・プライベート 家族との時間、友人との交流、趣味、学びなど
これに加えて、手帳会議のステップ3で書き出した「今年ずっと気になっていたこと」を照らし合わせてみてください。3つのジャンルのどこかに、必ずと言っていいほど当てはまるはずです。
目標は「自分のための目標」ほど続きやすい
目標の中身を考える上で、ぜひ知っておいてほしい研究があります。ドイツの大学とアメリカの大学の学生を対象にした、心理学者ティム・カッサー氏とリチャード・ライアン氏らによる調査です。
この研究では、目標を「内発的な目標」と「外発的な目標」の2種類に分けて分析しています。内発的な目標とは、自己受容、人とのつながり、地域への貢献、健康など、それ自体に取り組むこと自体が満足感につながる目標です。一方、外発的な目標とは、経済的な成功、他人からの評価、見た目の良さなど、外側からの報酬や評価を目的とした目標です。
調査の結果、内発的な目標を重視している人ほど、心の健康度が高い傾向にあることが分かりました。逆に、外発的な目標ばかりを追いかけている人は、その傾向が見られない、あるいは幸福度が低くなる場合もあることが示されています。
これは「お金を稼ぐ目標を立ててはいけない」という意味ではありません。ただ、目標を立てるときに「なぜそれを達成したいのか」という理由まで、少しだけ深掘りしてみる価値がある、ということです。「昇進したい」という目標の奥に、「もっと自分らしく働ける環境を作りたいから」という内発的な理由があるなら、その目標はきっと1年間、あなたを支え続けてくれます。
目標の「書き方」で達成率は変わる ─ Locke & Lathamの5原則
目標の中身がぼんやり見えてきたら、次は「書き方」です。アメリカの心理学者エドウィン・ロック氏とゲイリー・レイサム氏が、25年間にわたる研究の集大成として1990年に発表した理論に、目標設定における5つの原則があります。
- 明確さ(Clarity) 「もっと頑張る」ではなく、「何を、どのくらい」まで具体的に決める
- 適度な挑戦(Challenge) 簡単すぎる目標は達成感を生まず、モチベーションが続かない。かといって非現実的すぎてもいけない
- コミットメント(Commitment) 誰かに強制された目標ではなく、自分自身が「これをやりたい」と腹落ちしていること
- フィードバック(Feedback) 進捗が見える仕組みがあること
- 課題の複雑さ(Task complexity) 目標が複雑すぎる場合は、小さなステップに分解すること
この5原則を意識するだけで、目標の書き方は驚くほど変わります。実際の例で比べてみましょう。
NG例(曖昧な目標)
- 「もっと運動する」
- 「英語を頑張る」
- 「家族との時間を大切にする」
OK例(5原則を反映した目標)
- 「12月末までに体重を3kg減らす。火・木・土の朝7時から30分、自宅の周りをウォーキングする」
- 「来年の年末までにTOEICで730点以上を取る。平日の通勤前、朝7時から30分間、学習アプリでリスニングと単語学習をする」
- 「毎週日曜の夜7時から1時間、家族全員でスマホを触らずに夕食を囲む」
NG例とOK例の一番の違いは、「いつ・どこで・何を、どのくらい」までが具体的に書かれているかどうかです。これは、以前の記事でも詳しくご紹介した「実装意図(Implementation Intentions)」の考え方そのものでもあります。「いつ・どこで・どのように」までを決めておくことで、実際にその場面が来たときに、意志の力に頼らなくても体が自然と動きやすくなります。
目標を書くときの3つの問いかけ
手帳会議で洗い出した材料をもとに、以下の3つの問いに順番に答えていくと、5原則を自然に満たした目標文が出来上がります。
- 何を、いつまでに、どのくらい達成したいか(明確さ・適度な挑戦)
- なぜそれを達成したいのか(コミットメント・内発的な理由)
- いつ・どこで・どうやって取り組むか(フィードバック・課題の分解)
この3つを埋めるだけで、来年の手帳の1ページ目に、実行力のある年間目標が完成します。
第5章 ─ まだ時間があるから、今年できることは今年のうちに終わらせるべき?
年間目標を考えていると、ふと湧いてくる疑問があります。「今年、あと数ヶ月あるけど、この用事は年内に終わらせるべきなのか、それとも来年に持ち越していいのか」というものです。
結論から言うと、「終わらせられるものは、できるだけ年内に終わらせておく」ことをおすすめします。理由は2つあります。
理由1 ─ 頭の中に残ったままの用事は、想像以上にエネルギーを奪う
以前の記事でもご紹介した、フロリダ州立大学のE・J・マシカンポ氏とロイ・バウマイスター氏による2011年の研究を思い出してみてください。やり残した用事は、それが頭の中に残っているだけで、まったく別の作業をしているときにも、ふと気を散らしてしまうことが分かっています。そして興味深いことに、その用事を実際に終わらせなくても、「いつ、どのようにやるか」という具体的な計画さえ立ててしまえば、脳は安心してその用事を手放せることも示されています。
つまり、年内に終わらせられるものは実際に終わらせてしまうのが一番ですが、どうしても年内に終わらない場合は、「来年の手帳の何月何日に、これをやる」と具体的に書き込んでおくだけでも、頭の中はかなりすっきりします。「なんとなく気になっている未完了の用事」を1件でも減らした状態で新年を迎えることは、来年の目標に集中するための、静かだけれど確実な準備になります。
理由2 ─ 新年は「新しい挑戦」のための余白であってほしい
もう1つの理由は、新年という貴重な「フレッシュスタートのタイミング」を、今年の忘れ物の処理に使ってしまうのは、少しもったいないという考え方です。
先ほどご紹介したミルクマン氏らの研究が示すように、年の変わり目は、人が新しい挑戦に前向きになれる、限られたチャンスの時間です。このせっかくのタイミングを、「今年やり残したタスクの後片付け」からスタートするのか、「まっさらな気持ちで新しい目標に取り組む」ことからスタートするのかでは、1月の過ごし方の質がまったく変わってきます。
ただし、ここで1つ気をつけたいことがあります。ニューヨーク大学の心理学者ジョン・ノークロス氏による、新年の誓いに関する長年の研究では、興味深い事実が示されています。1985年から始まった調査では、新年の誓いを立てた人のうち、1週間後には77%が順調だと答えていたものの、1ヶ月後には55%、半年後には40〜46%まで下がっていきました。それでも、新年の誓いを立てなかった人たちの成功率が、わずか4%程度にとどまっていたことを考えると、誓いを立てること自体には、10倍以上の効果があると言えます。
さらにノークロス氏は、失敗しやすい人の特徴として、「壮大すぎる目標を立ててしまうこと」を挙げています。今年の忘れ物と来年の新しい挑戦をいっぺんに詰め込みすぎると、まさにこの「壮大すぎる目標」に陥ってしまいます。だからこそ、「今年のことは今年のうちに、できる範囲で片付けておく」ことが、来年の目標をシンプルに保つための下準備にもなるのです。
年末の忙しさの中で、すべてを完璧に終わらせる必要はありません。ただ、「これは年内にやる」「これは来年の何月にやると手帳に決めておく」という仕分けだけでも先にやっておくと、新年のスタートがぐっと軽やかになります。
第6章 ─ トラベラーズノートで年間目標を「運用する」具体的な方法
目標が決まったら、次はそれを1年間、実際にどう手帳の中で動かしていくかです。ここでは、筆者が2027年から実践しようと考えている、トラベラーズノートのマンスリーと「週間+メモ」(週間レフト)を使った運用方法を、フランクリン・プランナーの基礎的な考え方を交えながらご紹介します。
フランクリン・プランナーの「週間コンパス」という発想を借りる
フランクリン・プランナー・オーガナイザーには、「週間コンパス」と呼ばれるツールが付属しています。これは、その週の「週間テーマ」を決め、さらに自分が持っているいくつかの「役割」ごとに、今週意識したい目標を書き出すというものです。仕事人としての自分、家族の一員としての自分、健康を管理する自分など、複数の役割に分けて考えることで、目標が「仕事だけ」「自分のことだけ」に偏らず、バランスよく人生全体に広がっていきます。
この「役割ごとに目標を分けて意識する」という発想は、システム手帳特有のツールがなくても、トラベラーズノートに十分応用できます。年間目標を立てるときに、先ほどの「仕事・キャリア」「健康・体」「人間関係」という3つのジャンルで考えたのは、まさにこの週間コンパスの発想を借りたものです。
マンスリーページには「年間目標の見出し」だけを書く
トラベラーズノートのマンスリーリフィルは、月全体を見渡せるカレンダー形式のページです。ここには、細かいタスクではなく、年間目標を月ごとに小さく分解した「見出し」だけを書き込みます。
例えば、「TOEIC730点以上」という年間目標があるなら、1月のマンスリーページの隅に「単語帳1周」、2月には「模試1回目」、3月には「本番受験」といった具合に、月ごとのマイルストーンを短く書いておきます。マンスリーページは常にデスクの上に開いておくつもりなので、視界に入るたびに「今月やるべきこと」を思い出せる仕組みになります。
週間レフトの右ページに「実装意図」を書き込む
週間レフトの左ページには、確定した予定を書きます。そして右側のメモ欄に、その週にやりたいことや、年間目標につながる行動を、「いつ・どこで・何をするか」まで具体的に書き込みます。
例えば、月曜日のメモ欄に「火・木・土 朝7時 自宅周辺30分ウォーキング」と書いておく。これは、先ほどご紹介した実装意図の考え方をそのまま手帳の右ページに落とし込む方法です。「もし火曜の朝7時になったら、ウォーキングシューズを履いて家を出る」という、if-then形式の行動計画を、週の始まりに毎回書き直すイメージです。
そして週末には、その右ページを見返しながら、「今週はどれだけ実行できたか」を振り返ります。この振り返りが、フランクリン・プランナーの5原則のうちの「フィードバック」の役割を果たします。
進捗の「見える化」でやる気を引き出す ─ ゴール・グラディエント効果
ここでもう1つ、手帳の使い方に取り入れてほしい研究をご紹介します。コロンビア大学のラン・キベッツ氏らが2006年に発表した実験です。
あるカフェのポイントカードを使った実験で、10個のスタンプを集めると1杯無料になるカードを配ったところ、スタンプが貯まっていくほど、次の来店までの間隔がどんどん短くなっていくことが分かりました。つまり、人はゴールに近づけば近づくほど、やる気が加速するのです。
さらに面白いのは、別の実験です。同じく10回分の購入が必要なカードでも、「最初から2個スタンプが押された12個のカード」を渡されたグループの方が、まっさらな10個のカードを渡されたグループよりも、早くカードを完成させたという結果が出ています。つまり、実際の距離ではなく、「どれだけゴールに近いと感じるか」という心理的な距離こそが、やる気を左右するということです。
これを年間目標に応用するなら、進捗を「見える形」にしておくことがとても重要になります。週間レフトの右ページに、目標に取り組んだ日にチェックマークや小さなスタンプをつけていく。マンスリーページの日付を、目標に取り組めた日は色を変えて囲んでみる。こうした小さな工夫が、「あと少しで今月の目標達成だ」という感覚を生み出し、自然と行動を加速させてくれます。
書ききれない日は、軽量紙リフィルへ
週間レフトのスペースだけでは書ききれない日は、軽量紙リフィルに逃がします。年間目標について考えたこと、うまくいかなかった原因の分析、来月に向けてのメモなど、思考の断片をどんどん書き出せる余白があることで、頭の中の空き容量を保ちながら、1年間、目標と向き合い続けることができます。
第7章 ─ 海外の研究に見る、年間目標設定を後押しする興味深い知見
最後に、日本の手帳ブログではあまり紹介されることのない、海外の研究をもう少しだけ深掘りしてご紹介します。年間目標という少し長いスパンの計画に、特に関係の深いものを選びました。
新年の誓いは「無意味」ではない ─ ノークロス氏の長期追跡調査
先ほども触れたジョン・ノークロス氏の研究は、1985年から始まった、心理学の世界でも珍しい長期の追跡調査です。200人のアメリカ人を対象に、2年間にわたって新年の誓いの行方を追いかけました。
その結果分かったのは、新年の誓いを立てた人の成功率は、半年後の時点で40〜46%程度にとどまるものの、同じ変化を望みながら誓いを立てなかった人の成功率は、わずか4%程度だったということです。つまり、新年の誓いには、誓いを立てない場合と比べて10倍以上の効果があります。
ノークロス氏はさらに、成功する人と失敗する人を分ける要因についても分析しています。成功する人ほど、誓いを立てる前の段階で「自分は変わる準備ができている」という自覚があり、「自分ならできる」という自信のレベルも高かったといいます。また、成功した人たちも1月の最初の数週間には、失敗した人たちと同じくらいの「つまずき」を経験していました。違いは、そのつまずきをどう扱ったかにありました。成功した人は自分を責めすぎず、小さな成功を素直に喜びながら、淡々と続けていたのです。
この研究が教えてくれるのは、「誓いを立てても、最初のつまずきは誰にでもある」という、ある意味で安心できる事実です。1月の半ばに少しペースが崩れたとしても、それは失敗ではなく、多くの成功者もたどってきた、ごく普通の通過点なのかもしれません。
目標達成の鍵は「why」を明確にすること
フランクリン・プランナーを提供する企業のブログでも、目標達成のコツとして、まず「なぜその目標を達成したいのか」という理由を明確にすることの重要性が語られています。昇進したい理由が、単なる肩書きへの欲求なのか、それとも家族に安心を届けたいという思いなのか。表面的な目標の奥にある「なぜ」まで掘り下げることで、目標に取り組む力が、驚くほど長続きするようになります。これは、先ほどご紹介した内発的な目標と外発的な目標の研究とも、深くつながっている考え方です。
「予見的振り返り」を年に一度の儀式にする
第3章でご紹介したプロスペクティブ・ヒンドサイト(予見的振り返り)の技法は、企業のプロジェクト計画だけでなく、個人の年間目標にもそのまま応用できます。年末に一度だけ、「来年の今ごろ、目標が達成できていなかったとしたら、その理由は何だろう」と考える時間を作る。これだけで、目標達成の確率がぐっと高まる可能性があることを、複数の実験結果が示しています。
これらの研究に共通しているのは、「目標を立てる瞬間」そのものよりも、「目標を立てたあと、どう向き合い続けるか」の設計の方が、実はずっと重要だという視点です。年間目標は、書いて終わりではありません。1年かけて、何度も手帳の中で目にし、書き足し、軌道修正していくものです。そのための仕組みを、手帳という道具の中にあらかじめ組み込んでおくことこそが、この記事全体を通してお伝えしたかったことです。
まとめ ─ 来年の自分への、最初のプレゼント
ここまで、年間目標の立て方について、かなり詳しくお話ししてきました。最後に、全体を振り返ってみます。
年間目標を立てるベストなタイミングは、来年の手帳が店頭に並び始める9月から、実際に目標を書き込む12月中旬にかけての時期です。この季節の流れそのものが、フレッシュスタート効果を最大限に活用できる、絶好の助走期間になります。
目標の中身を考えるときは、いきなり頭の中だけで考えるのではなく、今年1年間書き込んできた手帳を丁寧に見返すことから始めます。今年の手帳と来年の手帳を並べる「手帳会議」の場で、印象に残った出来事や、頭の中でずっと気になっていたことを洗い出し、仕事・健康・人間関係という3つのジャンルに振り分けながら、具体的な目標へと言葉にしていきます。このとき、「いつ・どこで・どのくらい」まで書き込み、外発的な理由だけでなく、自分の内側から湧いてくる「なぜ」を大切にすることが、1年間続く目標をつくる鍵になります。
今年のうちにできることは、できるだけ今年のうちに終わらせておく。それが難しければ、来年のいつやるかだけでも先に決めておく。そうすることで、新年という貴重なフレッシュスタートの時間を、後片付けではなく、新しい挑戦のために丸ごと使うことができます。
そして目標を決めたあとは、トラベラーズノートのマンスリーページに大きな見出しを、週間レフトの右ページに具体的な行動計画を書き込みながら、1年間、少しずつ目標と向き合い続けます。進捗を目に見える形にしておくことで、ゴールに近づくほど、自然とやる気は加速していきます。
フランクリン・プランナーが教えてくれた「価値観から目標を逆算する」という考え方も、トラベラーズノートの自由な使い方も、突き詰めれば同じ場所にたどり着きます。それは、「1年後、自分がどこに立っていたいか」を、あらかじめ自分自身に伝えておくということです。
来年の手帳のいちばん最初のページに、今年のあなたから、来年のあなたへ、短い手紙のつもりで目標を書いてみませんか。それはきっと、これから始まる1年間への、いちばん最初のプレゼントになるはずです。
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参考文献・参照元
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- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69-119.
- Franklin Covey Japan「1週間コンパス」の考え方について(誠Biz.ID 掲載記事等を参考)
- 当ブログ過去記事「目標設定を習慣に!脳科学と心理学が証明する『最高のタイミング』で夢を確実に実現する最強メソッド」
この記事は、筆者が独自に調べた心理学・脳科学分野の研究や、フランクリン・プランナー、トラベラーズノートに関する個人的な使用体験をもとにまとめたものです。内容の正確性には配慮していますが、医学的・専門的なアドバイスを目的としたものではありません。効果や成果には個人差があり、この記事の内容を実践した結果について、当ブログは責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

