風邪で頭が痛い時、なぜ歯まで痛い?奥歯がうずく理由と見分け方【海外の研究も紹介】

歯が痛い人のイメージ
目次

はじめに 定期検診に通っているのに、風邪の日に限って歯が痛くなる不思議

「半年に一度は歯医者さんで検診を受けているし、毎日ちゃんと歯みがきもしている。それなのに、風邪をひいた途端に奥歯がズキズキする」

こんな経験はありませんか。

鼻はつまって、頭もぼんやり重い。熱っぽくて、なんだか体全体がだるい。そこへ追い打ちをかけるように、上の奥歯のあたりがじんわり、ときにはズキズキと痛み出す。「もしかして、急に虫歯になった?」「検診で何も言われなかったのに、歯が悪くなったの?」と不安になってしまいますよね。

しかも風邪で具合が悪いときは、歯医者さんに行く気力もわきません。市販の薬を飲んで寝て、数日後に風邪が治ったら、いつの間にか歯の痛みも消えていた。そんな不思議な体験をした方も多いはずです。

実はこの現象、決して珍しいものではありません。風邪のときに歯が痛くなるのには、ちゃんとした理由があります。そしてその理由を知っておくと、「放っておいて大丈夫な痛み」と「早めに受診したほうがよい痛み」を見分けやすくなります。

この記事では、日本の歯科医師や耳鼻咽喉科医の解説に加えて、海外の研究や専門機関の情報も参考にしながら、次のことをできるだけやさしい言葉でまとめました。

  • 風邪で頭痛や鼻づまりがあるときに、なぜ歯が痛くなるのか
  • 歯が原因の痛みと、鼻(副鼻腔)が原因の痛みの見分け方
  • 今日からできる対処法と、受診の目安

少し長い記事ですが、読み終わる頃には「あの痛みの正体はこれだったのか」とスッキリしていただけるはずです。

1. 風邪で頭痛や鼻づまりがあると歯が痛くなるのは「あるある」だった

まず安心していただきたいのは、風邪のときに歯が痛くなるのは「あるある」だということです。

米国のシンシナティ大学が発表している解説記事では、耳鼻咽喉科の専門家が、歯の痛みは副鼻腔の炎症(いわゆる副鼻腔炎)でよく見られる症状のひとつだと説明しています。しかも副鼻腔炎の多くは、風邪などのウイルスによる上気道の感染がきっかけで起こるとのことです[9]。つまり「風邪をひく → 鼻や副鼻腔が腫れる → 歯が痛む」という流れは、世界中で普通に起こっていることなのです。

日本の歯科医師の解説でも同じです。風邪をひいたときに上の奥歯が痛くなる人がいること、そして風邪が治ったあとも鼻の症状が続くようなら、歯が原因の副鼻腔炎の可能性もあるので、一度歯科で相談するとよいことが紹介されています[2][5]。

先に結論 風邪のときに歯が痛くなる主な理由

詳しくは後の章で順番に説明しますが、先に全体像をお伝えします。風邪のときの歯の痛みには、おもに次のような理由が重なっていると考えられます。

  1. 鼻の奥の空洞(副鼻腔)が腫れて、すぐ下にある歯の根っこを圧迫するから
  2. 顔と歯の感覚を脳に伝える「三叉神経」が、痛みの場所をとり違える(関連痛)から
  3. 風邪で体が炎症モードになり、痛みに敏感になるうえ、もともと小さな問題を抱えていた歯が目立ってくるから
  4. 口呼吸や薬の影響で口が乾いたり、つらさのあまり無意識に食いしばったりするから

この4つが単独で、あるいは組み合わさって起こるため、「検診で問題がなかった歯」でも痛むことがあるわけです。ひとつずつ見ていきましょう。

2. 理由その1 鼻の奥の空洞「上顎洞」と歯の根っこは壁一枚のお隣さん

上顎洞(じょうがくどう)ってどこにあるの?

顔の骨の中には、空気がたまった空洞がいくつもあります。これが「副鼻腔(ふくびくう)」です。鼻の奥につながっていて、おでこの裏、目と目のあいだ、頬の奥などに左右対称に広がっています。

その中で最も大きいのが、頬の骨の内側にある「上顎洞(じょうがくどう)」です。場所をイメージすると、目の下から頬にかけての奥に、ちょうど小さな風船が入っているような感じです。そしてこの風船の底にあたる部分が、上の奥歯の根っこのすぐ上にあたります。

つまり上顎洞と上の奥歯の根っこは、薄い骨の壁をはさんだ「お隣さん」同士。ときには、歯の根の先が空洞のほうにわずかに顔を出していることさえあります。

壁の厚さは人それぞれ

歯科医師の丸山和弘さんによると、上顎洞と口の中を隔てる骨の壁がとくに問題になるのは、犬歯のうしろにある3〜4本の歯です。壁の厚さにはかなり個人差があり、臨床の感覚では、問題のない人が9割ほどで、ごく一部の壁が薄い人が、歯と副鼻腔で影響し合いやすいとされています[1]。

さらに同じ解説では、年齢とともに上顎洞が大きくなるため、相対的に壁が薄くなる傾向があり、中高年になってから風邪をひくと奥歯が痛くなる人もいる、と紹介されています[1]。

ただし、この「年齢との関係」については、後ほど海外の研究の章でお話しするように、研究によって見方が分かれる部分もあります。いずれにしても、壁の薄さや歯の根との距離は見た目ではわからず、個人差が大きいというのが大切なポイントです。

「風邪をひくと毎回、同じ側の奥歯が痛くなる」という人は、もともと歯の根と上顎洞が近いタイプなのかもしれません。

痛くなるのは上の奥歯が中心

上顎洞は「上あご」にあるため、副鼻腔が原因の歯の痛みは、基本的に上の歯、とくに奥歯(大臼歯・小臼歯)に出やすくなります。米国の歯科医院チェーンの解説でも、副鼻腔はあくまで上あごの上にあるもので、下あごの近くにはないため、副鼻腔の炎症で下の歯が痛むことはあまり典型的ではないと説明されています[10]。

そのため、「風邪のときに痛いのは、決まって上の奥歯のあたり」という方は、副鼻腔が関わっている可能性が高いと言えます。

3. 理由その2 風邪から副鼻腔炎へ。腫れと圧力が歯の神経を刺激する

風邪のあとに起こりやすい「副鼻腔炎」

風邪をひくと、ウイルスの影響で鼻の粘膜が赤く腫れ、鼻水もたくさん出ます。この腫れが副鼻腔の出入り口をふさいでしまうと、空洞の中に鼻水や分泌物がたまって、出ていけなくなります。

出口がふさがれて中に液体がたまると、空洞の内側の粘膜はさらに腫れ、圧力が高まります。さらにシンシナティ大学の解説では、ウイルス感染で粘液が副鼻腔に閉じ込められると、細菌が増えやすい環境になり、ウイルス性の副鼻腔炎が細菌性に発展してしまう場合があることも説明されています[9]。

日本の薬局だよりでも、風邪をこじらせて副鼻腔炎になることが多いので、風邪をひいたら無理をしないこと、鼻がつまっても思い切りかまないようにすることが呼びかけられています[6]。

腫れた粘膜が、歯の根のまわりの神経を刺激する

腫れた上顎洞の粘膜や、たまった液体の圧力は、すぐ下にある歯の根っこのまわりの神経を刺激します。その結果、脳は「歯が痛い」と感じてしまいます。実際には歯そのものに異常がなくても、です。

この種類の痛みには、次のような特徴があるとされています。

  • 上の奥歯が、1本ではなく複数本まとめて、重たく痛む
  • ズキズキ、ジンジンという鈍い痛みや圧迫感が続く
  • 前かがみになったとき、あるいは横になったときに痛みが強くなる
  • 鼻づまり、鼻水、頬のあたりの重苦しさをともなう

前かがみや横になったときに痛みが増すという点は、シンシナティ大学の解説や米国の歯科医院の解説でもくり返し挙げられています[9][10]。頭の位置が変わると、副鼻腔の中の液体や圧力の向きが変わるため、痛みの強さも変わるのです。

治れば痛みも消えることが多い

こうした「副鼻腔が原因の歯の痛み」は、副鼻腔の炎症が治まれば自然に消えていくことが多いのが特徴です。シンシナティ大学の解説では、副鼻腔炎の多くは7〜10日ほどで自然に治るとされています[9]。

「風邪が治ったら歯の痛みも消えた」という経験は、まさにこのパターンだったと考えられます。

4. 理由その3 頭痛と歯痛が同時に来る「三叉神経」と関連痛のしくみ

ここまでは「副鼻腔が歯を圧迫する」という、いわば物理的な理由でした。ここからは、もう少し神経のしくみに踏み込みます。難しそうに聞こえますが、イメージは簡単です。

顔と歯の感覚は「ひとつの太い神経の束」で脳につながっている

顔の感覚や、歯・歯ぐきの感覚を脳に伝える役目をしているのが、「三叉神経(さんさしんけい)」です。顔の左右に1本ずつあり、途中で3つの枝に分かれて、おでこ・頬・あご、そして上の歯・下の歯へと広がっています。

つまり、おでこの裏の副鼻腔も、頬の奥の上顎洞も、上の歯も、同じ三叉神経の仲間が担当しているのです。いわば、同じ配線につながっているイメージです。

脳が「どこが痛いのか」をとり違える

脳は、神経から送られてきた信号をもとに、「どこが痛いのか」を判断しています。ところが、近い場所にある複数の部位の信号が同じ神経ルートに集まってくると、脳は「本当はどこから来た信号なのか」を正確に区別できなくなることがあります。

そのため、副鼻腔や頭のあたりで生じた痛みが、歯の痛みとして感じられることが起こります。これを「関連痛(かんれんつう)」と呼びます。

ベルギーのルーヴェン大学(KUルーヴェン)の研究者らがまとめた、歯以外が原因の歯痛についての総説でも、歯痛の原因は大多数が歯そのものですが、まれに歯以外が原因であることがあり、その代表例として、筋肉の痛み、三叉神経の障害、頭の血管が関わる痛み(片頭痛など)、副鼻腔の病気、さらには心臓由来の痛みまでが挙げられています[12]。

頭痛と歯痛がセットで来る理由

風邪のときに頭痛と歯の痛みが同時に出やすいのは、このためだと考えられます。

風邪で副鼻腔が腫れて圧力が高まると、おでこや目のまわりが重くなり、頭痛としても感じられます。同時に、同じ三叉神経を通じて、上の歯のあたりにも痛みが広がります。つまり「頭痛」と「歯痛」は、別々の病気というより、同じ神経ルートでつながった一連の症状であることが多いのです。

アイルランド歯科医師会誌に掲載された、頭痛を歯科の視点から解説した記事でも、頭痛の仕組みは脳の中で生まれますが、その痛みは三叉神経を通じて伝わり、上あごや下あごに痛みが飛ぶことは珍しくない、と説明されています[16]。

「頭が痛いから、歯まで痛くなる」という感覚は、決して気のせいではなかったのです。

5. 理由その4 風邪で体が炎症モード。痛みに敏感になり、隠れた歯のトラブルも目立つ

風邪をひくと、体は「炎症モード」に入る

ウイルスに感染すると、体は敵と戦うために、全身で炎症の反応を起こします。このとき、「プロスタグランジン」といった物質が増えることが知られています。ハーバード大学医学部の研究を紹介した記事では、発熱、食欲の低下、だるさ、体の節々の痛みといった、感染したときのセット症状は、こうしたプロスタグランジンによって引き起こされると解説されています[20]。

そして一般に、炎症にかかわる物質は、痛みを感じる神経を敏感にすることが知られています。そのため、風邪のときは、ふだんなら気にならない程度の刺激でも、痛みとして感じやすくなっている可能性があります。

なお、この部分は「風邪と歯痛の関係」を直接調べた研究というより、体の仕組みから考えられている説明です。参考情報として受け取っていただければと思います。

もともとあった小さな問題が、痛みとして表に出る

風邪で免疫が落ちていたり、体力が消耗していたりすると、それまで目立たなかった歯のトラブルが、痛みとして顔を出すことがあります。

たとえば次のようなものです。

  • 歯ぐきの軽い炎症(歯周病のはじまり)
  • 詰め物や被せ物のすき間にひそんでいた小さな虫歯
  • 以前に神経の治療をした歯の、根の先に残っていたごく小さな炎症

定期検診に通っていても、レントゲンに写らないレベルの小さな炎症や、治療済みの歯の根の先の問題は、ゼロにはできません。それが、風邪をひいて体のバランスが崩れたときに、サインとして出てくるのです。

治療済みの歯が、副鼻腔炎の原因になることも

ここで、ひとつ大切な話があります。

日本医事新報に掲載された耳鼻咽喉科医(川村繁樹さん)の解説によると、歯が原因で起こる副鼻腔炎(歯性上顎洞炎)は、最近では、未治療の虫歯よりも、歯科治療を受けたあとの歯が原因になるケースが増えているそうです。とくに多いのは、神経の治療(根管治療)が、根の先まで十分に届いていない歯だとされています[4]。

そのため、「口の中を見てもむし歯がない」「定期検診で問題なし」という歯でも、上顎洞炎の原因として疑うことが大切だと解説されています[4]。

また、メディカルノートによれば、歯が原因の上顎洞炎では、原因になる歯は、奥から3番目の歯(第一大臼歯)が最も多く、奥から2番目の歯(第二大臼歯)と合わせて約8割を占めるとされています[3]。

つまり、定期的に歯医者さんに通っていても、風邪をきっかけに歯と副鼻腔の問題が表に出てくることは、十分にありうるわけです。通院していることと、痛みが出ることは、矛盾しません。

6. 見落としがちな理由 口の乾きと食いしばり

ここまでが主な理由ですが、実はもうひとつ、見落とされやすい要因があります。

口呼吸と薬の影響で、口の中が乾く

鼻がつまると、どうしても口で息をするようになります。口呼吸が続くと、口の中が乾きやすくなります。唾液には、歯の表面を洗い流したり、細菌の増えすぎを防いだりする大切な働きがあるため、乾燥すると歯がしみやすくなったり、歯ぐきが荒れやすくなったりします。

さらに、風邪薬や鼻づまりの薬には、副作用として口が渇くものがあります。英国の国民保健サービス(NHS)の解説でも、鼻づまりを和らげる薬(プソイドエフェドリン)の一般的な副作用として、頭痛や吐き気のほかに、口の渇きが挙げられています[18]。

風邪をひいて口が乾き、そこへ薬の影響も加わる。この状態が数日続けば、歯や歯ぐきが敏感になるのも不思議ではありません。

つらさのあまり、無意識に食いしばっている

もうひとつ見逃せないのが、歯ぎしりや食いしばりです。

風邪で具合が悪いと、寝苦しくて眠りが浅くなったり、頭痛や体のだるさに耐えて無意識に歯を食いしばったりしがちです。歯ぎしりや食いしばりは、頭痛や肩こりの原因になることがあるうえ、歯の根のまわりや、あごの筋肉に強い負担をかけます[7][8]。

米国のヘルスライン(Healthline)の解説でも、副鼻腔炎の症状が治まったあとに歯の痛みが続くときは、歯ぎしりが原因の可能性もあるので、歯科か医師に相談するよう紹介されています[11]。

「風邪のときだけでなく、疲れたときやストレスがあるときにも歯が痛む」という方は、食いしばりのクセがないか、一度チェックしてみてください。

7. 海外の研究や資料から見えてくる、日本の記事ではあまり語られない視点

ここからは、日本語の記事ではあまり取り上げられていない、海外の研究や専門機関の情報をご紹介します。

7-1 「歯が痛い=歯が原因」とは限らない。海外では「歯以外が原因の歯痛」という考え方が定着

海外の歯科の論文では、歯の痛みを大きく「歯が原因の歯痛(odontogenic toothache)」と「歯以外が原因の歯痛(non-odontogenic toothache)」に分けて考えるのが一般的です。

先ほど紹介したKUルーヴェンの総説では、まさにこの「歯以外が原因の歯痛」を扱っており、診断がむずかしい理由として、痛みが神経に沿って離れた場所に飛ぶこと(関連痛など)が挙げられています[12]。

韓国の大学病院の症例報告(Parkらの論文)では、「歯が痛い」と受診した患者さんの痛みが、実際には三叉神経痛や口腔灼熱症候群(口の中が焼けるように痛む病気)だったケースが紹介されています。この論文は、治療を始める前に、その痛みが本当に歯由来かを慎重に見きわめることの重要性を強調しています[13]。

また、マレーシアの大学による2021年の症例報告では、三叉神経痛が歯の痛みと誤診され、診察やX線で異常がないにもかかわらず、最初に外科的な処置や神経の治療が行われてしまった例が報告されています[14]。カナダ歯科医師会誌(JCDA)にも、歯科治療を重ねても治まらない歯の痛みについて、歯以外の原因を疑うべきだという趣旨の解説が掲載されています[15]。

ここから学べるのは、「歯医者さんで異常なしと言われたのに歯が痛い」というのは、決して珍しい話でも、気のせいでもないということです。痛みの出どころが歯ではない可能性を考えることは、世界の歯科の現場では、きちんと意識されている視点なのです。

7-2 世界各国のCT研究が示す「歯の根と副鼻腔の近さ」

日本では「壁が薄い人はごく一部」と説明されることが多い一方、海外では、歯科用のCT(コーンビームCT)を使って、歯の根と副鼻腔の距離を実際に測った研究が、国ごとに数多く行われています。

  • サウジアラビア(539人のCT画像) 上の奥歯の根と上顎洞の底との距離は、0〜2ミリという非常に近いタイプが最も多く、とくに第二大臼歯の頬側の根が最も近かったと報告されています。距離は年齢とともに大きくなる傾向があり、抜歯やインプラントなどの合併症のリスクは若い世代のほうが大きいとされています[17]
  • パキスタン(60人のCT画像、1066本の根) 第二大臼歯の頬側の根が上顎洞に最も近く、平均で約0.4ミリ。なかには上顎洞の中に突き出している根もありました。一方、第一小臼歯の頬側の根は平均約8ミリと、最も遠い位置にありました[17]
  • 韓国(219人のCT画像、2182本の根) 上顎洞に突き出す頻度が最も高く、突き出し具合も最も大きかったのは、第一大臼歯の口蓋側(上あごの内側)の根で、平均約2ミリでした。距離は多くの歯で年齢とともに増える傾向がみられました[17]
  • トルコ(849人のCT画像、5166本の歯) 第一小臼歯は上顎洞との関係がほとんどなく、第二大臼歯のほうがより近いという結果でした。関係性は年代によって異なっていました[17]

国や対象によって数値は違いますが、共通しているのは、上の奥歯のなかでも、とくに奥のほうの歯(第二大臼歯付近)の根が上顎洞に近いという点です。これは、風邪のときに「上の奥のほうの歯」が痛みやすい理由とも、よく合っています。

また、年齢との関係については、日本の歯科医師の「年齢とともに壁が薄くなる傾向がある」という説明と、海外のCT研究の「年齢とともに距離が広がる傾向がある」という結果が、一見すると食い違っているようにも見えます。これは、調べた集団や測り方、「壁の厚さ」と「歯の根との距離」という見ている指標の違いによるところもあると考えられます。大切なのは、どちらの報告でも、個人差が大きく、画像検査をしてはじめてわかるという点が共通していることです。

7-3 米国の専門家が挙げる「副鼻腔が原因っぽい歯の痛み」のサイン

シンシナティ大学の耳鼻咽喉科の専門家は、歯の痛みが副鼻腔から来ている可能性を示すサインとして、次の3つを挙げています[9]。

  1. 痛みが上の歯だけに出ている
  2. 鼻の症状や頭痛をともなっている
  3. 体勢を変えると痛みが強くなる

同じ記事では、「目の痛みや腫れ」「意識がぼんやりする」「首が硬くなる(首が曲げにくい)」といった症状があるときは、すぐに医療機関を受診するよう呼びかけています[9]。副鼻腔の炎症は、まれに目や脳のほうへ広がることがあるためです。

7-4 鼻づまりの薬は「短期間」が基本(英国NHS)

先ほど紹介した英国NHSの解説では、鼻づまりを和らげる薬(プソイドエフェドリン)について、使うのは短期間、通常は7日未満にとどめること、血圧や心拍数を上げることがあるため、心臓に問題がある人には向かないこと、ほかの鼻づまりの薬と併用しないことなどが説明されています[18][19]。

日本の市販の風邪薬や鼻炎薬にも、似た働きの成分が入っていることがあります。「鼻がつまって苦しいから」と長く飲み続けたり、複数の薬を重ねて使ったりせず、用法・用量を守ること、迷ったときは薬剤師さんに相談することが大切です。

8. 副鼻腔が原因か、歯が原因か。セルフチェック表

ここまでの内容をふまえて、風邪のときの歯の痛みが「副鼻腔(鼻)が原因っぽい」のか「歯が原因っぽい」のかを、目安として表にまとめました。あくまで目安で、これだけで診断できるものではありません。

チェック項目副鼻腔(風邪)が原因っぽい歯が原因っぽい
痛む場所上の奥歯が複数本まとめて特定の1本だけ
痛み方重い、鈍い、圧迫される感じ鋭い、しみる、ズキンと走る
悪化するとき前かがみ、横になったとき冷たいもの・熱いもの、噛んだとき
鼻の症状鼻づまり、鼻水、頬の重さがあるとくにない
経過風邪の経過に合わせて強弱が変わる風邪が治っても痛みが続く
歯ぐきとくに変化なし腫れている、押すと痛い

次のような場合は、歯に原因がある可能性が高くなります。

  • 痛む歯を指で軽くたたく、または噛むと響く
  • 歯ぐきがぷくっと腫れている
  • 冷たい飲み物をとった後、痛みがなかなか引かない
  • 風邪が治っても、同じ歯の痛みが続いている

歯科医師の解説では、長期間放置されたむし歯が原因で、上顎洞に膿がたまる場合、「噛むと痛む」「頬が脈打つようにズキズキ痛む」といった症状が出ることがあるとされています[2]。

9. 今日からできる対処法とセルフケア

副鼻腔の腫れが原因と思われる場合は、「鼻の通りを良くして、副鼻腔の圧力を下げる」ことが基本です。

体を温めて、水分をしっかりとる

  • 温かい飲み物をこまめにとって、水分補給をする
  • 蒸しタオルや温めたタオルで、頬や鼻のまわりを温める
  • 入浴で体を温め、蒸気を吸い込む
  • 部屋を加湿して、乾燥を防ぐ

温めると鼻のまわりの血行がよくなり、分泌物が出やすくなるため、圧迫感がやわらぐことがあります。

横になるときは、頭を少し高くする

頭の位置が低いと、副鼻腔の中の液体や圧力が増して、痛みが強くなりがちです。枕やクッションを重ねて、頭と上半身を少し高くして休むと、楽になる方もいます。

鼻のかみ方に気をつける

強く鼻をかむと、鼻の奥の圧力が急に高まって、副鼻腔や耳に負担がかかることがあります。片方ずつ、やさしくかむようにしましょう。薬局だよりでも、鼻がつまっても思い切りかまないよう呼びかけられています[6]。

口の中を清潔に、やさしくケアする

  • 歯みがきは、力を入れすぎずやさしく行う
  • 食後や起床時には、水やぬるま湯でうがいをして口の中をうるおす
  • 痛む歯でかたいものを噛まない(片側ばかりで噛むクセも避ける)

東京ドクターズの歯科医師の解説では、偏った噛み方が上顎洞炎のきっかけになることがあり、痛む側でかまないよう意識することが大切だとされています[5]。

食いしばりに気づいたら、歯を離す

起きている間も、無意識に上下の歯が触れ合っていることがあります。気づいたら、あごの力を抜いて、上下の歯を軽く離しておきましょう。唇は閉じていても、歯は触れていない状態が楽な状態です。

市販薬は、用法・用量を守って

痛みがつらいときは、市販の痛み止めを使うこともあります。その際は、必ず添付文書の用法・用量を守ってください。すでに飲んでいる風邪薬に、痛み止めの成分が入っていることもあるので、重ねて飲まないよう、成分表示を確認しましょう。持病がある方、妊娠中・授乳中の方、お子さんの場合は、薬剤師さんや医師に相談してください。

「歯のせいにして」歯を削ったり抜いたりしない

とても大切なことですが、風邪の最中の歯の痛みで、「これは歯が悪いんだ」と決めつけて、焦って治療を急ぐのはおすすめできません。副鼻腔が原因の痛みだった場合、歯の治療をしても痛みは消えません。海外の症例報告でも、歯以外が原因の痛みが、歯の治療の対象とされてしまった例が報告されています[14]。

10. 受診の目安 歯科?耳鼻咽喉科?内科?

こんな場合は、早めに受診しましょう

  • 風邪が治ったのに、歯の痛みや鼻の症状が1週間以上続く
  • 痛みが1本の歯に集中していて、噛むと強く響く
  • 歯ぐきや頬が腫れている、熱を持っている
  • ドロッとして臭いのある鼻水が続く、あるいは片側だけ鼻がつまる
  • 強い痛みで眠れない、痛み止めが効かない

東京ドクターズの解説でも、風邪は治ったのに鼻の症状が続く場合は、歯性上顎洞炎の可能性もあるため、一度歯科医院に相談するとよいと紹介されています[5]。

緊急性が高いサイン

次のような症状があるときは、我慢せず、すぐに医療機関を受診してください。

  • 目の痛みや、目のまわり・まぶたの腫れ
  • 意識がぼんやりする、混乱する
  • 首が硬くなって曲げにくい、強い頭痛と高熱がある
  • 顔が大きく腫れてきた
  • 胸の痛みや息苦しさ、冷や汗をともなって、歯やあごが痛む

最後の項目は、先ほどのKUルーヴェンの総説で、歯以外が原因の歯痛のひとつに心臓由来の痛みが挙げられていることからも、念のため頭に入れておいていただきたい内容です[12]。

何科に行けばよい?

迷ったときの目安は次の通りです。

  • 鼻づまり、鼻水、頭痛、熱などの風邪症状が中心の場合 内科、または耳鼻咽喉科
  • 歯そのものの痛み、歯ぐきの腫れ、噛むと痛い場合 歯科
  • どちらか判断できない場合 まずは歯科か耳鼻咽喉科、どちらでも大丈夫です

日本医事新報の解説では、歯が原因の上顎洞炎は、歯科的な原因があるため、上顎洞炎自体の重症度にかかわらず、歯科への相談が欠かせないとされています。また、歯科治療がすでに終わっていても、歯科で再度診察を受けることが勧められています[4]。歯科と耳鼻咽喉科、どちらを先に受診しても、必要に応じてもう一方を紹介してもらえます。

11. よくある質問(Q&A)

Q1. 下の歯が痛いのも、風邪や副鼻腔炎が原因ですか。

上顎洞は上あごの上にあるため、副鼻腔の炎症で下の歯が痛くなることは、あまり典型的ではないとされています[10]。ただし、三叉神経を通じた関連痛や、食いしばり、あごの筋肉の疲れなどが原因で、下の歯が痛くなることもあります。下の歯の痛みが続く場合は、歯科で確認してもらいましょう。

Q2. 風邪が治れば、歯の痛みも自然に消えますか。

副鼻腔の腫れが原因の場合は、風邪や副鼻腔炎が治まるにつれて、痛みも軽くなることが多いです。副鼻腔炎の多くは7〜10日ほどで自然に良くなるとされています[9]。ただし、風邪が治っても歯の痛みや鼻の症状が続くときは、歯が原因の副鼻腔炎などの可能性があるため、受診をおすすめします。

Q3. 定期検診に通っているのに、歯が原因の副鼻腔炎になることはありますか。

あります。最近では、未治療の虫歯よりも、歯科治療のあとの歯(とくに神経の治療を受けた歯)が原因になるケースが多いと報告されています[4]。ただし、定期検診が無駄というわけではありません。むし歯や歯周病を早い段階で見つけて治療すれば、歯の神経を取らずに済む可能性が高まり、将来のトラブルのリスクも下げられます[1]。

Q4. 市販の鼻づまりの薬を飲んでいれば、歯の痛みも治まりますか。

鼻づまりが和らいで副鼻腔の圧力が下がれば、歯の痛みも軽くなる場合があります。ただし、薬は短期間の使用が基本で、血圧や心臓に持病がある方は注意が必要です[18]。痛みが続く場合は、薬を飲み続けるのではなく、医療機関で相談しましょう。

Q5. 風邪をひくたびに、同じ側の歯が痛みます。放っておいていいですか。

毎回同じ側で痛む場合は、その側の歯の根と副鼻腔が近い、あるいは、その歯に小さな問題がある可能性があります。風邪が落ち着いたタイミングで、歯科でレントゲンやCTなどの検査を受けて、歯の状態を確認してもらうと安心です。

まとめ 風邪の日の歯の痛みは、「歯だけ」の問題ではないかもしれない

最後に、この記事の内容を振り返ります。

はじめにでお伝えしたように、定期検診に通っていても、風邪のときに歯が痛くなることは、決して珍しいことではありません。

その理由は、大きく4つありました。

  1. 副鼻腔(上顎洞)と上の奥歯の根っこが「お隣さん」同士で、風邪による腫れや圧力が歯の根のまわりの神経を刺激するから
  2. 三叉神経という「同じ配線」で、頭・副鼻腔・歯がつながっていて、脳が痛みの場所をとり違える(関連痛)から
  3. 風邪で体が炎症モードになり、痛みに敏感になるうえ、もともと小さな問題を抱えていた歯が痛みとして顔を出すから
  4. 口呼吸や薬の影響による口の乾き、つらさによる無意識の食いしばりが、歯の痛みを後押しするから

また、海外の研究や資料からは、次のことも見えてきました。

  • 世界各国のCT研究でも、上の奥歯(とくに奥のほう)の根は、副鼻腔の底にとても近く、個人差が大きいこと
  • 海外の歯科では「歯以外が原因の歯痛」という考え方が定着していて、痛みの出どころが歯とは限らないと、きちんと意識されていること
  • 上の歯だけが痛い、鼻の症状や頭痛をともなう、体勢で痛みが変わる、といったサインは、副鼻腔が原因の可能性を示唆すること

そして、対処の基本は、体を温めて水分をとり、頭を高くして休み、鼻のかみ方に気をつけること。歯を急いで削ったり抜いたりせず、まずは風邪をしっかり治すことです。そのうえで、風邪が治っても痛みが続くとき、1本の歯に痛みが集中しているとき、腫れや強い症状があるときは、早めに歯科や耳鼻咽喉科に相談しましょう。

風邪で頭も体もつらい日に、さらに歯まで痛むと、本当に心細くなりますよね。でも、その痛みには理由があり、多くの場合は風邪が治れば落ち着いていきます。この記事が、「あの痛みの正体はこれだったんだ」と、少しでも気持ちが軽くなるきっかけになれば嬉しいです。

どうぞ、あたたかくして、ゆっくり休んでくださいね。


参考文献・参照元

最終確認日 2026年10月16日

日本語の資料

  1. 丸山和弘「歯が原因で副鼻腔(上顎洞)に症状が出やすい病気」All About https://allabout.co.jp/gm/gc/465323/
  2. 丸山和弘「歯が原因の副鼻腔炎?歯性上顎洞炎の症状・治療法」All About https://allabout.co.jp/gm/gc/301781/
  3. 「歯性上顎洞炎」メディカルノート(2024年11月18日更新) https://medicalnote.jp/diseases/歯性上顎洞炎
  4. 川村繁樹「歯性上顎洞炎の病態の変化」日本医事新報 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=4078 および「歯性上顎洞炎の治療」日本医事新報 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15744
  5. 「歯性上顎洞炎の原因・症状・治療方法」東京ドクターズ https://tokyo-doctors.com/condition/d308
  6. 「副鼻腔炎」ファーマライズ薬局だより(2019年2月号) https://www.pharmarise.com/paper/list/201902.pdf
  7. 「歯ぎしり(ブラキシズム)の原因・症状・治療方法」東京ドクターズ https://tokyo-doctors.com/condition/d669
  8. 「虫歯や顎関節症だけじゃない!歯ぎしり・食いしばりが引き起こす口や歯のトラブルとは?」美的.com(2018年11月20日) https://www.biteki.com/332702/

海外の資料

  1. University of Cincinnati「How to tell if tooth pain is caused by a sinus infection」(2024年) https://www.uc.edu/news/articles/2024/11/how-to-tell-if-tooth-pain-is-caused-by-sinus-infection.html
  2. Aspen Dental「Can a sinus infection cause tooth pain?」 https://www.aspendental.com/dental-care-resources/can-a-sinus-infection-cause-tooth-pain/
  3. Healthline「Sinus Toothache」 https://www.healthline.com/health/dental-and-oral-health/sinus-toothache
  4. KU Leuven(ルーヴェン大学)「Non-odontogenic toothache」(総説) https://lirias.kuleuven.be/retrieve/577048
  5. Park ら「Diagnostic challenges of nonodontogenic toothache」Restorative Dentistry & Endodontics 第37巻3号 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3569403
  6. Shoji Y「Trigeminal neuralgia as nonodontogenic toothache: a case report」(2021年9月) https://oalib-perpustakaan.upi.edu/Record/repouitm_70463/Details
  7. Journal of the Canadian Dental Association「Persistent Toothache Despite Multiple Dental-related Treatments」 https://jcda.ca/sites/default/files/o2.pdf
  8. Journal of the Irish Dental Association「A dental perspective on headache」(2004年 第50巻4号) https://www.dentist.ie/_fileupload/JIDA/Abstracts/Winter%202004%20Vol%2050%20No%204%20-%203.pdf
  9. コーンビームCTによる上顎臼歯の根と上顎洞底の位置関係についての各国の研究
  10. NHS(英国国民保健サービス)「About pseudoephedrine」 https://www.nhs.uk/medicines/pseudoephedrine/about-pseudoephedrine/
  11. NHS「Pseudoephedrine (Sudafed)」 https://www.nhs.uk/medicines/pseudoephedrine-old/
  12. Harvard Magazine「Tyrant Fever’s Trigger」(ハーバード大学医学部サパー教授らの発熱研究の紹介、2008年) https://www.harvardmagazine.com/sites/default/files/pdf/2008/03-pdfs/0308-16.pdf

ご注意

この記事は、風邪のときの歯の痛みに関する一般的な情報の提供を目的としたもので、医師・歯科医師による監修を受けたものではありません。記事の内容は、執筆時点で確認できた国内外の資料にもとづいていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、医学・歯学の知見は日々更新されるため、最新の情報と異なる場合があります。

痛みの原因や程度には大きな個人差があり、この記事だけで、ご自身の症状を診断したり、治療方針を決めたりすることはできません。症状がある場合は、必ず歯科医師・医師などの専門家に相談してください。また、市販薬の使用にあたっては、添付文書や薬剤師の説明に従ってください。

この記事の情報を利用して生じたいかなる損害やトラブルについても、筆者および当サイトは一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。

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この記事を書いた人

手帳が続かない・考えすぎて動けない、そんな時期を何度も経験してきました。
手帳歴20年以上、GTD・振り返り・小さな習慣を実践しながら、少しずつ自分なりの整理術を見つけてきた人間です。
「頑張りすぎない改善」をテーマに、手帳・習慣化・心理・オカルト・日常の気になることを丁寧に発信しています。

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