「この新曲、どこかで聴いた…?」その正体はコード進行だった。組み合わせを計算して分かったヒット曲が昔の曲に似る理由

音楽を作っている人のイメージ
目次

はじめに 最新曲なのに「あれ?どこかで聴いたことがあるような…」

ラジオやお店のBGM、動画サイトのおすすめ欄。ふとした瞬間に流れてきた最新のヒット曲を聴いて、「あれ?この曲、どこかで聴いたことがあるような…」と首をかしげた経験はありませんか?

初めて聴く曲のはずなのに、サビに入った瞬間に「知ってる感じ」がする。なんなら次にどんなメロディが来るのか、なんとなく予想できてしまう。そして実際その通りに曲が進んで、妙に気持ちいい。そんな不思議な体験です。

私自身、中学の吹奏楽部から音楽を始めて、その後はバンドでギターやベースを弾き続け、気づけば音楽と関わって20年以上が経ちました。楽譜を読み、コードを拾い、何百曲とコピーしてきた中で、この「聴いたことある感」の正体には、なんとなく見当がついています。

答えを先に少しだけ言ってしまうと、その正体の多くは「コード進行」にあります。

ただ、それだけで終わらせてしまうのはもったいない。この記事では、次のような疑問を一つずつ、できるだけ専門用語を使わずにひもといていきます。

  • 音楽を作る材料(音符やコード)は、そもそも全部で何通りの組み合わせがあるのか
  • 人間が「心地よい」と感じるコード進行は本当にあるのか
  • 心地よいコード進行があるなら、メロディまで昔の曲に似てしまうのか
  • 音楽はもう出尽くしてしまったのか、それとも限界はまだ先なのか

日本の音楽ブログではあまり紹介されていない、海外の研究や裁判の事例も交えながら、「新曲が昔の曲に似ている理由」を一緒に探っていきましょう。

第1章 そもそも「コード進行」って何? 音楽を料理にたとえてみる

本題に入る前に、この記事で何度も登場する「コード進行」という言葉について、ざっくり整理しておきます。楽器を弾かない方にも分かるよう、料理にたとえてみますね。

メロディは「主役の食材」、コードは「お皿とソース」

ひとつの曲は、大きく分けると次の3つの要素でできています。

要素ざっくり言うと料理にたとえると
メロディ歌の「節(ふし)」。口ずさめる部分主役の食材
コード(和音)複数の音を同時に鳴らした響きソースや味付け
リズム音を鳴らすタイミングやノリ盛り付けや食感

コードとは、たとえば「ド・ミ・ソ」のように、いくつかの音を同時に鳴らしたときの響きのことです。ギターで「ジャーン」と鳴らす、あの音ですね。「ド・ミ・ソ」なら明るい響き(Cメジャー)、「ラ・ド・ミ」なら少し切ない響き(Aマイナー)というように、コードにはそれぞれ「表情」があります。

そして、このコードを「どの順番で並べるか」がコード進行です。料理で言えば、前菜からメインディッシュ、デザートへと続く「コースの流れ」のようなもの。同じ食材を使っても、出す順番が変われば食事の印象はがらりと変わりますよね。

「ドレミ」は全部で12個しかない

もうひとつ大事な前提があります。私たちが普段耳にするポップスやロックで使われる音の高さは、1オクターブ(ドから次の高いドまで)の中に、たった12種類しかありません。

ピアノの鍵盤を思い浮かべてください。白い鍵盤が7つ(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)、黒い鍵盤が5つ。合わせて12個です。この12個の音がオクターブごとに繰り返されているだけなのです。

世界中のヒット曲も、クラシックの名曲も、アニメソングも、基本的にはこのたった12個の音を材料に作られています。こう聞くと「そりゃ似た曲が出てきてもおかしくないよね」と思えてきませんか?

では実際、この12個の音とコードの組み合わせは、全部で何通りあるのでしょうか。次の章で計算してみます。

第2章 音楽は音符とコード進行の組み合わせ!それぞれ全部で何通りあるのか計算してみた

「似た曲が多いのは、組み合わせの数が少ないからなのでは?」という疑問を確かめるために、実際に計算してみましょう。数学が苦手な方も大丈夫です。掛け算だけで進めます。

計算1 8つの音でメロディを作ると何通り?

まずはシンプルに、「8つの音を並べてメロディを作る」場合を考えます。リズムは考えず、音の高さだけを並べるとします。

1つ目の音は12種類から選べます。2つ目も12種類、3つ目も12種類…と、8つ目まで続きます。つまり、

12 × 12 × 12 × 12 × 12 × 12 × 12 × 12 = 12の8乗 = 429,981,696通り

約4億3000万通りです。たった8つの音を並べるだけで、日本の人口の3倍以上のパターンが生まれます。

計算2 リズムも加えると一気に爆発する

実際の音楽にはリズムがあります。そこで、1小節(4拍)を8分音符で8つのマスに区切り、それぞれのマスに次のどれかを入れるルールにしてみます。

  • 12種類の音のどれかを鳴らす(12通り)
  • 休む(休符)(1通り)
  • 前の音をそのまま伸ばす(1通り)

1マスあたり14通り。これが8マスあるので、

14の8乗 = 1,475,789,056通り

たった1小節で約14億8000万通り。

さらに、歌のワンフレーズとしてよくある4小節分(32マス)に広げると、

14の32乗 ≒ 4.7 × 10の36乗通り

数字にすると「47の後ろに0が35個並ぶ」ほどの、とんでもない大きさです。地球上の砂浜の砂粒の数は、ざっくり10の18乗〜10の19乗個程度と言われることがありますから、それとは比べものにならないほどの数です。

計算3 コード進行は何通り?

では、コード進行はどうでしょう。

コードの種類は、12の音それぞれを土台(ルート音)にして、明るいメジャー、切ないマイナー、おしゃれなセブンスなど、よく使われるタイプを仮に12種類とすると、

12 × 12 = 144種類のコード

この144種類から4つを選んで並べる「4コードの進行」は、

144の4乗 = 429,981,696通り

おもしろいことに、計算1のメロディと全く同じ数字になりました(144は12の2乗なので、144の4乗は12の8乗と同じになるのです)。

ところが、ここからが大事なポイントです。

現実の曲は「キー(調)」の中で作られる

実際のポップスの多くは、「キー(調)」と呼ばれるルールの中で作られています。たとえば「Cメジャーキー」の曲なら、主に使うのはドレミファソラシの白鍵7音と、そこから作られる7つの基本コードです。

この7つのコードだけで4つの並びを作ると、

7 × 7 × 7 × 7 = 2,401通り

さらに「同じコードを連続させない」というよくあるパターンに絞ると、

7 × 6 × 6 × 6 = 1,512通り

一気に数が小さくなりました。

しかも、キーが変わっても(曲全体の高さを上げ下げしても)、コード同士の「関係」は変わりません。音楽好きの間で「この曲、あの曲と同じ進行だよね」と言われるのは、この関係が同じという意味です。つまり、ポップスで実用的に使われる4コードの「型」は、せいぜい千数百通り程度しかないのです。

計算のまとめ

対象組み合わせの数
8音のメロディ(高さだけ)約4億3000万通り
1小節のメロディ(リズム込み)約14億8000万通り
4小節のメロディ(リズム込み)約4.7 × 10の36乗通り
4コードの進行(144種類から)約4億3000万通り
4コードの進行(キー内の7コード)2,401通り

ここで見えてくるのは、メロディの組み合わせはほぼ無限なのに、ポップスで実際に使われるコード進行の「型」はかなり限られているということです。

ギターやベースを弾く方なら、実感として分かるかもしれません。私もバンドで数えきれないほどの曲をコピーしてきましたが、コード譜を開いた瞬間「あ、またこの進行か」と思うことは本当によくありました。ベースのルート音の動きだけ見れば、まったく別の曲なのに指の動きがほぼ同じ、なんてことも珍しくありません。

海外では「全メロディを作り尽くした」人たちがいる

この「組み合わせを計算する」という発想を、実際にやってしまった人たちが海外にいます。

アメリカの弁護士でありプログラマーでもあるダミアン・リール氏と、ノア・ルービン氏が2019年ごろに立ち上げた「All the Music(オール・ザ・ミュージック)」というプロジェクトです。

彼らはコンピューターを使い、ひとつのオクターブ内の8つの音と12拍という条件で考えられるメロディを片っ端から生成しました。その数は約680億通りと言われています。そして、生成したメロディをすべて誰でも自由に使えるパブリックドメイン(著作権のない状態)として公開したのです。

なぜそんなことをしたのか。リール氏は講演の中で、音楽業界で増え続ける「盗作訴訟」への問題提起だったと語っています。メロディの組み合わせは数学的に有限なのだから、偶然似てしまうのは避けられない。それなのに「似ている」というだけで訴えられるのはおかしいのではないか、という主張です。

この話は日本ではあまり知られていませんが、「似た曲が生まれるのは必然なのか」を考えるうえで、とても示唆に富むエピソードです。

第3章 人間にとって心地よいと感じるコード進行はあるの?

組み合わせの「型」が限られていることは分かりました。では、その限られた型の中でも、なぜ特定のコード進行ばかりがヒット曲で使われるのでしょうか。

結論から言うと、人間にとって心地よいと感じやすいコード進行は、確かに存在します。その理由を、音の物理、脳の仕組み、そして実際の「定番進行」から見ていきましょう。

理由1 音の「相性」は物理的に決まっている

2つの音を同時に鳴らしたとき、きれいに溶け合う組み合わせと、ぶつかってザラザラする組み合わせがあります。

たとえば「ド」と、その1オクターブ上の「ド」。この2つの音は、空気の振動の速さ(周波数)がちょうど1対2の関係にあります。「ド」と「ソ」なら約2対3。こうしたシンプルな数の比率で振動する音同士は、よく溶け合って心地よく聞こえやすいことが知られています。

この発見は古代ギリシャの数学者ピタゴラスにまでさかのぼると言われ、1960年代にはオランダの研究者プロンプとレヴェルトが、近い周波数の音がぶつかると「うなり」や「ざらつき」が生じ、それが不快感につながることを実験で示しました。

コードの基本である「ド・ミ・ソ」は、まさにこうした相性のいい音を重ねた組み合わせ。人間が気持ちよく感じるのには、物理的な根拠があるのです。

理由2 でも「心地よさ」は文化でも育てられる

一方で、「心地よさはすべて物理で決まる」とも言い切れません。

2016年に科学誌『ネイチャー』に掲載されたマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョシュ・マクダーモット氏らの研究では、南米ボリビアのアマゾン地域で暮らし、西洋音楽にほとんど触れてこなかったチマネ族の人々に、さまざまな和音を聴いてもらいました。

すると、アメリカの人々が「きれい」と感じる協和音と、「濁っている」と感じる不協和音のあいだで、チマネ族の人々は好みにほとんど差を示さなかったのです。

つまり、私たちが「このコードは気持ちいい」と感じる感覚の一部は、生まれつきではなく、子どものころから聴いてきた音楽によって育てられたものだと考えられます。

ここがとても重要なポイントです。私たちは生まれてから何千、何万曲という音楽を浴びるように聴いて育ちます。その中で、よく使われるコード進行が「当たり前」「気持ちいい」と脳に刻まれていく。だからこそ、同じタイプの進行に出会うと「知ってる感」「安心感」を覚えるのです。

理由3 脳は「予想が当たる」と快感を覚える

音楽を聴いているとき、私たちの脳は無意識のうちに「次はこう来るだろう」と予想を立てています。

アメリカの音楽学者デイヴィッド・ヒューロン氏は、著書『Sweet Anticipation(スウィート・アンティシペーション=甘い予感)』の中で、音楽の快感は「予想」と深く関係していると論じました。予想が当たれば安心感や心地よさが生まれ、ほどよく裏切られれば驚きやワクワクが生まれる、という考え方です。

この考えは脳科学の実験でも裏づけられています。

2011年、カナダ・マギル大学のヴァロリー・サリンプア氏らは、人が音楽で鳥肌が立つほど感動しているときの脳を調べました。その結果、快感に関わる物質「ドーパミン」が、感動のピークの瞬間だけでなく、その少し前の「来るぞ、来るぞ」という期待の段階でも放出されていることが分かったのです。

サビの直前で「くるぞ…!」と胸が高鳴るあの感覚。あれは脳がドーパミンを出しながら、次の展開を予想している状態なのかもしれません。

理由4 「予想どおり」と「ちょっと意外」のバランスが最強

さらに興味深いのが、2019年に科学誌『カレント・バイオロジー』に掲載された、ドイツのマックス・プランク研究所のヴィンセント・チャン氏らの研究です。

研究チームは、1958年から1991年のアメリカのヒットチャート(ビルボード)に入った745曲から、約8万個のコードを分析しました。そして、メロディや歌詞を取り除いた「コード進行だけ」を被験者に聴かせ、どれくらい心地よいかを評価してもらったのです。

その結果、心地よさが最も高くなったのは次の2つのパターンでした。

  • 先の展開が予想しやすい流れの中で、ちょっとした意外性があるとき
  • 先の展開が読みにくい流れの中で、ちゃんと予想どおりに着地したとき

つまり、「ほどよい安心感」と「ほどよい驚き」のバランスが取れたときに、人は最も心地よさを感じるというわけです。

完全に予想どおりだと退屈。予想外ばかりだと疲れる。ヒット曲が「どこかで聴いたことがある」のに「新鮮」でもあるのは、この絶妙なバランスを狙って作られているからだと考えると、とても納得がいきます。

実例 世界と日本の「鉄板コード進行」

では、実際にどんなコード進行が「心地よい定番」として使われているのでしょうか。代表的なものを紹介します。数字はキーの中での何番目のコードかを表していますが、雰囲気だけ感じてもらえれば十分です。

① 4つのコード進行(Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ)

海外で最も有名なのがこの進行です。2009年、オーストラリアのコメディ音楽グループ「アクシス・オブ・オーサム」が、たった4つのコードだけで数十曲のヒット曲を次々とつなげて歌う「4 Chords」というパフォーマンスを発表し、世界的に話題になりました。ビートルズの「レット・イット・ビー」やジャーニーの「ドント・ストップ・ビリーヴィン」など、時代もジャンルも違う名曲が同じ4つのコードで歌えてしまうことに、多くの人が衝撃を受けたのです。

明るく始まり、少し切なさを帯びて、また前向きに戻る。この流れが、人の感情をちょうどよく揺さぶります。

② カノン進行

17世紀ごろのドイツの作曲家パッヘルベルによる「カノン」に由来する進行です。ゆっくりと階段を下りていくようなベースの動きが特徴で、懐かしさや感動を呼び起こします。

300年以上前のクラシック曲の進行が、今も卒業ソングやラブソングで使われ続けている。これはまさに「人間にとって心地よい進行」が時代を超えることの証拠と言えるでしょう。

③ 王道進行(Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm)

日本のJ-POPで特によく使われることから「王道」と呼ばれる進行です。少し浮遊感のある始まりから、切なさへと流れ込む展開は、日本人の好む「エモさ」とぴったり合っているとよく言われます。サビで使われることが多く、「これぞJ-POPのサビ」という感じを生み出します。

④ 小室進行(Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ)

1990年代に一世を風靡したプロデューサーの名前から呼ばれる進行です。切なく始まって、最後に明るく解決する流れが、疾走感と哀愁を同時に感じさせます。

⑤ 丸サ進行(いわゆる「Just the Two of Us進行」)

海外ではグローバー・ワシントン・ジュニアの「Just the Two of Us」に由来する名前で知られ、日本では人気曲の名前から「丸サ進行」と呼ばれることもあります。おしゃれで都会的な雰囲気があり、近年のJ-POPやシティポップ系の曲で頻繁に耳にします。

ベーシストとして感じる「気持ちいい進行」の共通点

ここで少し、私自身の演奏経験からの話をさせてください。

ベースを弾いていると、気持ちいい進行には共通点があると感じます。それは、ルート音(コードの土台となる一番低い音)が、なめらかに、あるいは力強く「次に行きたい場所」へ動いていくことです。

たとえば、カノン進行ではベースが一段ずつ下がっていきます。階段を下りるように自然な動きなので、聴いている人は「次はここに行くな」と無意識に予想でき、その予想どおりに音が進むことで安心感が生まれます。

吹奏楽でも同じでした。低音パートが和音の土台をしっかり支え、その上で和音が「緊張」から「解決」へと移り変わるとき、合奏全体がふわっと気持ちよく響く瞬間があります。あの感覚こそが、人類が何百年もかけて見つけてきた「気持ちいい進行」の正体なのだと思います。

第4章 心地よいコード進行があるなら、メロディも昔の曲と似ちゃうの?

コード進行の「型」が限られていて、しかも人間が好む進行がある程度決まっているなら、その上に乗るメロディも似てきてしまうのではないか。これは自然な疑問です。

答えは「ある程度は、似やすくなる」です。理由を順番に見ていきましょう。

理由1 メロディはコードの「中の音」に引き寄せられる

メロディを作るとき、多くの場合、強く聞こえる拍(1拍目や3拍目など)にはコードの中に含まれる音を置きます。そうすると、メロディとコードがきれいに溶け合って安定して聞こえるからです。

たとえば、コードが「ド・ミ・ソ」のとき、メロディの大事な部分には「ド」「ミ」「ソ」のどれかが来やすい。つまり、同じコード進行を使うと、メロディの「骨組み」となる音もかなり絞られてしまうのです。

第2章で、メロディの組み合わせは天文学的な数になると計算しました。しかし実際には、コードとの相性を考えた時点で、使いやすい音はぐっと限られます。12音どころか、各拍で「気持ちよく聞こえる候補」は3〜4音程度になることも珍しくありません。

理由2 人間が歌いやすいメロディには「クセ」がある

前出の音楽学者ヒューロン氏は、世界中のさまざまな民族の音楽を分析し、メロディには共通する「クセ」があることを指摘しています。

  • 隣り合う音へなめらかに動くことが多い(大きく跳ぶより、一歩ずつ進む)
  • 大きく跳び上がったあとは、反対方向へ戻ってくることが多い
  • フレーズの終わりに向かって、音が下がっていく傾向がある

これは、人間の声が歌いやすい動き方や、耳が追いかけやすい動き方と関係していると考えられています。カラオケで歌いやすい曲を思い浮かべると、確かに音がぴょんぴょん跳ねすぎず、なめらかに動いていることが多いですよね。

さらに、ポップスのメロディは、多くの人が無理なく歌える音域(だいたい1オクターブ半程度)に収められることがほとんどです。

「コードに合う音」「歌いやすい動き」「無理のない音域」という3つの条件を満たそうとすると、メロディの選択肢は思っている以上に狭くなる。その結果、昔の曲と似たメロディが生まれやすくなるのです。

理由3 日本人が好む「音階」もある

日本の曲に特有の傾向もあります。

ドレミファソラシから「ファ」と「シ」を抜いた音階は、日本では「ヨナ抜き音階」と呼ばれます(ドから数えて4番目と7番目、つまり「ヨ」と「ナ」の音を抜くことから)。童謡や演歌、そしてJ-POPのサビなどでも根強く使われていて、どこか懐かしく、親しみやすい響きを持っています。

使う音が5つに絞られるぶん、メロディの組み合わせはさらに少なくなります。日本の曲を聴いて「懐かしい」「聴いたことある」と感じやすいのは、この音階の影響もあるかもしれません。

似ているのは「パクリ」なのか? 海外の有名な裁判から考える

ここで気になるのが、「似ている曲は盗作(パクリ)なのか?」という問題です。海外、特にアメリカではこの問題がたびたび裁判になってきました。日本ではあまり詳しく報じられない事例も多いので、いくつか紹介します。

ケース1 「ブラード・ラインズ」裁判(2015年〜2018年)

ロビン・シックとファレル・ウィリアムスのヒット曲が、マーヴィン・ゲイの1970年代の名曲に似ているとして訴えられた裁判です。メロディやコード進行がそっくり同じというより、曲全体の「雰囲気」や「ノリ」が似ていると判断され、作曲者側に多額の賠償が命じられました。

この判決は音楽業界に大きな衝撃を与えました。「雰囲気が似ているだけで盗作になるなら、もう誰も安心して曲を作れない」と、多くのミュージシャンが懸念を示したのです。

ケース2 ケイティ・ペリー「ダーク・ホース」裁判(2019年〜2022年)

ケイティ・ペリーのヒット曲が、あるクリスチャン・ラップの曲の短いフレーズに似ているとして訴えられました。一度は陪審員が盗作を認めましたが、その後、裁判所は「そのフレーズはありふれた音の並びにすぎず、誰かが独占できるものではない」として判断を覆しました。

ケース3 エド・シーラン「シンキング・アウト・ラウド」裁判(2023年)

エド・シーランの代表曲が、マーヴィン・ゲイの「レッツ・ゲット・イット・オン」に似ているとして訴えられた裁判です。法廷でシーラン本人がギターを手に取り、問題のコード進行がいかに多くの曲で使われている「ありふれたもの」かを実演してみせたことが話題になりました。

結果は、シーラン側の勝訴。シーランは判決後、「コード進行や音の並びは、ソングライターみんなが使う共通の道具だ」という趣旨の発言をしています。

これらの裁判の流れを見ると、海外では少しずつ「コード進行や短い音の並びは、みんなで共有する音楽の“部品”であり、それが似ているだけでは盗作とは言えない」という考え方が強まってきていることが分かります。

もちろん、メロディをまるごと写したような明らかな盗用は別問題です。しかし、「似ている」こと自体は、ここまで見てきたように数学的にも、脳の仕組み的にも、ある意味では避けられないことなのです。

第5章 そろそろメロディ・コード進行も出尽くした?音楽の限界は?

さて、ここまで読んで「じゃあ、もう新しい音楽は生まれないの?」と不安になった方もいるかもしれません。最後の大きな疑問、「音楽はもう出尽くしたのか」について考えてみます。

データで見る ポップスは「似てきている」のか

2012年、スペインの研究者ジョアン・セラ氏らは、1955年から2010年までに発表された約46万曲の音楽データを分析し、科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に発表しました。

その結果、時代が進むにつれて、

  • 音の並び方(コードやメロディの移り変わり)のバリエーションが少しずつ狭まっている
  • 楽器の音色の多様性が減ってきている
  • 曲の音量がどんどん大きくなっている(いわゆる「音圧競争」)

といった傾向が見られたと報告しています。

研究チームは、「昔の曲を、少しだけ音色を変えたり音量を上げたりして作り直せば、新しく聞こえるかもしれない」という皮肉まじりのコメントまで残しています。データの上でも、「最近の曲は昔の曲に似ている」という感覚には一定の裏づけがあるわけです。

でも別の研究では「革命」も起きている

一方で、2015年にイギリスのロンドン大学クイーン・メアリー校のマティアス・マウフ氏らが発表した研究は、少し違う結論を示しています。

彼らは1960年から2010年までのアメリカのヒットチャートに入った約1万7000曲を分析しました。すると、ポップスの多様性は一直線に失われていったわけではなく、ときどき大きな「革命」が起きていたことが分かったのです。

特に大きな変化があったのは、1964年ごろ(ビートルズなどのブリティッシュ・ロックの上陸)、1983年ごろ(シンセサイザーやドラムマシンの普及)、そして1991年ごろ(ヒップホップの台頭)だったと報告されています。

つまり、音楽は似たものが続く「停滞期」と、まったく新しいものが現れる「革命期」を繰り返しながら進化してきたということです。

「コード進行が出尽くす」と「音楽が出尽くす」は別の話

ここで、第2章の計算を思い出してください。

キーの中の7つのコードで作る4コード進行は、2,401通りしかありませんでした。この「型」だけを見れば、確かにほとんど出尽くしていると言ってもいいかもしれません。

でも、音楽は「コード進行」だけでできているわけではありません。

  • メロディ 4小節だけでも10の36乗通りを超える組み合わせがある
  • リズム 同じコード進行でも、バラードとダンスミュージックではまったく別物に聞こえる
  • 音色 ギター、ピアノ、シンセサイザー、さらにはまだ誰も聴いたことのない電子音
  • 歌詞 言葉の組み合わせは、音の組み合わせよりもさらに膨大
  • 歌声 同じ曲でも、歌う人が違えば印象はまるで変わる
  • アレンジや録音技術 時代ごとの技術が、新しい響きを生み出し続ける

これらを掛け合わせれば、組み合わせの数は事実上「無限」と言っていいレベルになります。

私もバンドで何度も経験しましたが、同じコード進行の曲でも、ベースのリズムパターンを変えるだけで曲の表情は驚くほど変わります。8分音符でまっすぐ刻むのか、シンコペーション(リズムをずらす弾き方)で跳ねさせるのか。それだけでロックにもファンクにもなります。コード進行が同じでも、「同じ曲」にはならないのです。

新しい「材料」も生まれ続けている

さらに、音楽の材料そのものも広がり続けています。

近年は、パソコンひとつで誰でも曲を作れるようになり、これまでにない音色やリズムを試す人が世界中で増えました。12個の音のさらに間にある、細かな音程を使う「微分音」の音楽に挑戦するアーティストもいます。動画サイトやSNSから、地域ごとの民族音楽の要素を取り入れた新しいジャンルが生まれることもあります。

また、音楽は「時代の空気」と結びついて意味を持つものです。同じコード進行でも、その時代を生きる人が、その時代の言葉と音で表現すれば、それは新しい音楽として届きます。

「出尽くした」と言われ続けて数百年

実は、「音楽はもう出尽くした」という嘆きは、今に始まったものではありません。

19世紀のイギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルは、自伝の中で「音の組み合わせには限りがあるのだから、いつか美しいメロディは作り尽くされてしまうのではないか」と悩んだことを書き残しています。

それから150年以上が経ちましたが、その後もジャズが生まれ、ロックが生まれ、ヒップホップが生まれ、エレクトロニック・ミュージックが生まれました。音楽は「出尽くす」どころか、ますます多様になっています。

コード進行という「骨組み」は限られていても、その上に乗る「肉付け」は無限にある。これが、音楽の限界についての、私なりの答えです。

まとめ 「どこかで聴いたことがある」は、音楽が人類の共有財産である証

最後に、この記事の内容を振り返ってみましょう。

① 音楽の材料は意外と少ない
ポップスで使う音は1オクターブにたった12個。キーの中で使う基本のコードは7つほど。4つのコードを並べる「型」は、実用的には2,401通り程度しかありません。

② それでもメロディの組み合わせは天文学的
リズムを含めた4小節のメロディだけで、10の36乗通りを超えます。ただし、コードとの相性や歌いやすさを考えると、実際に「使える」メロディはぐっと絞られます。

③ 人間には「心地よい」と感じやすいコード進行がある
シンプルな周波数の比率による音の相性、子どものころから聴いてきた音楽による「慣れ」、そして「予想が当たる快感」と「ほどよい驚き」のバランス。この3つが重なって、カノン進行や王道進行、4つのコード進行のような「鉄板」が生まれました。

④ だからメロディも似やすくなる
同じコード進行の上で、人間が歌いやすく、聴いて心地よいメロディを作ろうとすると、どうしても昔の曲と似た部分が出てきます。海外の裁判でも、「ありふれた進行や短い音の並びは、みんなの共有財産」という考え方が広がりつつあります。

⑤ それでも音楽は出尽くさない
コード進行の型は限られていても、リズム、音色、歌詞、歌声、アレンジ、そして時代の空気を掛け合わせれば、音楽の可能性は事実上無限です。

新しい曲を聴いて「あれ、どこかで聴いたことがある…」と感じたとき、それは決して手抜きやパクリのサインとは限りません。むしろ、何百年もかけて人類が見つけてきた「気持ちいい響き」を、あなたの耳と脳がちゃんと覚えている証拠なのです。

300年前のパッヘルベルが書いた進行が、今もどこかの新曲で鳴っている。そう考えると、音楽は時代を超えて受け継がれる、壮大なバトンリレーのようにも思えてきます。

20年以上音楽に関わってきた私にとっても、「この進行、知ってる!」と気づく瞬間は、昔の名曲と今のヒット曲が一本の線でつながる、ちょっとうれしい瞬間です。

次に「どこかで聴いたことがある」新曲に出会ったら、ぜひ「この曲は、どの名曲とつながっているんだろう?」と想像しながら聴いてみてください。きっと、いつもの音楽が少しだけ違って聞こえてくるはずです。


参考文献・参照元

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  • Gray v. Hudson, 28 F.4th 87 (9th Cir. 2022)(ケイティ・ペリー「ダーク・ホース」裁判)
  • Structured Asset Sales / Griffin v. Sheeran(2023年、ニューヨーク連邦地裁陪審評決)

ご注意

この記事は、筆者の音楽経験と、公開されている研究論文・報道などをもとに、音楽をより楽しむための読み物としてまとめたものです。記事内の組み合わせ数の計算は、考え方を分かりやすくするために条件を単純化した概算であり、実際の音楽理論上の厳密な数値を示すものではありません。また、紹介した研究結果や裁判の内容は執筆時点で確認できる情報にもとづいており、その後の研究や判決によって解釈が変わる可能性があります。

特定の楽曲が著作権を侵害しているかどうかを判断するものではなく、法的な助言を目的としたものでもありません。楽曲制作や著作権に関する具体的な判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、当ブログおよび筆者は一切の責任を負いません。あらかじめご了承ください。

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この記事を書いた人

手帳が続かない・考えすぎて動けない、そんな時期を何度も経験してきました。
手帳歴20年以上、GTD・振り返り・小さな習慣を実践しながら、少しずつ自分なりの整理術を見つけてきた人間です。
「頑張りすぎない改善」をテーマに、手帳・習慣化・心理・オカルト・日常の気になることを丁寧に発信しています。

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