以前、「夢はなぜすぐ忘れる?」という記事を書きました。目が覚めた瞬間には鮮明だったはずの夢が、数十秒のうちに消えていく理由を、海外の脳科学研究から掘り下げた内容です。

そしてその少し前には、「悪夢を見るのはなぜ?」という記事で、なぜ人は怖い夢を見てしまうのか、その脳内メカニズムについても書きました。

この2本を書きながら、ずっと頭の片隅に残っていた疑問があります。「夢を忘れないようにする方法」や「悪夢を減らす方法」はわかった。でも、そもそも良い夢を”見る”ことはできないのだろうか、という疑問です。
悪夢を我慢して耐えるのではなく、最初から幸せな夢、心地よい夢を見られたら、それに越したことはありません。そして調べてみると、これは単なる願望論ではなく、海外の睡眠研究の世界で真剣に検証されてきたテーマだということがわかりました。
この記事では、良い夢を見るために何ができるのか、海外の大学や研究機関が発表してきた研究をもとに、専門用語をできるだけ使わずに詳しく紹介していきます。今夜からすぐに試せる実践的な方法も、最後にまとめて紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
そもそも「良い夢」とはどんな夢なのか
夢の中身は、起きている間の自分と地続きだった
良い夢を見る方法を考える前に知っておきたいのが、「夢は起きている生活と無関係なランダムな映像ではない」という研究上の考え方です。
アメリカの心理学者ウィリアム・ドムホフ氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)は、長年にわたり数万件規模の夢の内容を分析し、「継続性仮説(continuity hypothesis)」と呼ばれる考え方を提唱しています。これは、夢の内容は日中の関心事や感情状態と地続きになっているという理論です。仕事のプレッシャーを感じている時期には仕事に関連した夢を見やすく、大切な人との関係に悩んでいる時期にはその人が夢に登場しやすくなる、というのはこの理論からも説明がつきます。
つまり夢は、脳が完全にランダムに生成している映像ではなく、私たちが起きている間に何を考え、何を感じているかを色濃く反映した「心の鏡」のようなものだと言えます。
寝る前の気分が、その夜の夢の”トーン”を決める
継続性仮説をふまえると、ひとつの実践的な示唆が見えてきます。それは、就寝前の気分や思考が、その夜見る夢の感情的な色合いに影響を与える可能性があるということです。
不安なニュースを見てから眠った夜と、楽しかった出来事を思い出しながら眠った夜とでは、夢の中身が変わってくるというのは、多くの人が経験的に感じていることでもあります。研究者の間でも、就寝前に処理していた思考内容がその日最後の情報として夢に組み込まれやすいという見方が広く共有されています。
これは裏を返せば、「寝る前に何を考えるか」を少し工夫するだけで、夢の方向性にある程度の影響を与えられる可能性がある、ということでもあります。次の章では、この考え方を実際の技法にまで発展させた、海外の研究を紹介していきます。
夢の内容は”注文”できる ― ドリームインキュベーションという発想
古代ギリシャ・ローマから続く、夢を”求める”文化
実は「見たい夢を意図的に呼び込む」という発想自体は、決して新しいものではありません。古代ギリシャやローマには「アスクレピオン」と呼ばれる神殿があり、人々は病気の治癒や神託を求めて、その神殿であえて眠りにつくという儀式的な習慣がありました。これは「ドリームインキュベーション(夢の孵化、夢を育てること)」と呼ばれる考え方の原型とされています。
現代の睡眠科学では、この考え方が心理学的な技法として再評価されています。
ハーバード大学の心理学者が提唱する具体的な方法
夢研究の第一人者として知られるアメリカの心理学者ディアドラ・バレット氏(ハーバード大学医学部)は、ドリームインキュベーションの具体的なステップを紹介しています。
その方法は、驚くほどシンプルです。まず、見たいテーマや解決したい問題を、寝る前に頭の中で思い浮かべます。もしそれが何らかのイメージとして表現できるなら、そのイメージを最後まで意識に残したまま眠りにつきます。バレット氏は、枕元にそのテーマに関連するものを置いておくことも勧めています。たとえば人間関係の悩みであれば相手を象徴するもの、創作活動のアイデアであれば真っ白なキャンバス、研究上の課題であれば取り組んでいる図式や試作品といった具合です。
そしてもうひとつ、バレット氏が強調しているのが「目が覚めた直後に飛び起きないこと」です。目覚めた瞬間にすぐ体を動かしてしまうと、夢の内容の半分近くが失われてしまうとされています。しばらく横になったまま、夢の余韻に浸ることが大切だというわけです。この点は、以前の記事「夢はなぜすぐ忘れる?」で紹介した「覚醒-検索モデル」とも重なる部分です。
なぜこの方法が効くと考えられているのか
ドリームインキュベーションが機能する背景には、先ほど紹介した継続性仮説があります。就寝前に強く意識したテーマは、その日の「最後に処理された重要な情報」として脳に記録されやすく、レム睡眠中にその情報を素材にした夢が作られやすくなる、と考えられています。
もちろん、狙った通りのストーリーがそのまま夢に出てくるとは限りません。しかし海外の研究者の間では、少なくとも狙ったテーマや、それに関連するイメージが夢に登場する確率は、何もしない場合に比べて明確に高まることが繰り返し報告されています。
MITが実証した「狙った夢を見る」技術 ― ターゲテッド・ドリーム・インキュベーション
眠りに落ちる”境界”の時間に働きかける
ドリームインキュベーションをさらに一歩進めた研究として、近年世界的に注目を集めているのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの研究チームが開発した「ターゲテッド・ドリーム・インキュベーション(TDI)」という手法です。
研究を主導したアダム・ハー・ホロウィッツ氏らのチームが着目したのは、完全に眠りに落ちる直前の、うとうとした状態です。専門的には「入眠時心像(ヒプナゴジア)」と呼ばれるこの状態は、覚醒と睡眠の境界にあり、外部からの暗示に対して非常に影響を受けやすい特殊な意識状態だとされています。
研究チームは、この状態を検出できる装着型のデバイス「Dormio(ドーミオ)」を開発しました。装置が心拍や皮膚の電気的な変化、指の動きなどをもとに、装着者がちょうどこの境界状態に入ったタイミングを検知すると、アプリがあらかじめ設定した音声を流す仕組みになっています。
「木のことを考えて」と言われた人の67%が、本当に木の夢を見た
実際の実験では、参加者に「木のことを考えて」という音声メッセージを、うとうとするたびに繰り返し聞かせました。その結果は非常に印象的なものでした。このメッセージを聞いた参加者の夢の報告のうち、67%に木に関連する内容が含まれていたのに対し、メッセージを聞かなかった参加者では、わずか3%にとどまったのです。
さらに興味深いのは、この実験が単に「夢の内容を操作できた」という結果だけでは終わらなかった点です。木をテーマにした夢を見た参加者は、目覚めた後に行われた創造性のテストで、そうでない参加者よりも高い成績を示しました。研究チームは、特定のテーマについて夢を見ることが、そのテーマに関する目覚めた後の思考の柔軟性や発想力にも良い影響を与える可能性があると報告しています。
睡眠研究の権威として知られるベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのロバート・スティックゴールド氏も、この研究について、夢見ている脳に直接働きかけ、その内容を操作するという新しい段階に夢研究を進めたものだと評価しています。
専用デバイスがなくても応用できる、簡易版の3ステップ
Dormioのような専用デバイスは一般には手に入りませんが、この研究のエッセンスは、家庭でも簡易的に応用できます。ポイントは、「はっきりとした、しかもポジティブなワンシーン」を選ぶことです。
まず、見たい夢のテーマを、ひとつの短い場面にまで絞り込みます。「楽しい旅行の夢」のような漠然としたものではなく、「大好きなビーチで波の音を聞きながら座っている場面」のように、できるだけ具体的な一場面に絞ることがポイントです。
次に、布団に入ってうとうとしてきたタイミングで、その場面を短いフレーズにして心の中で繰り返します。声に出す必要はありません。「ビーチで波の音を聞いている」というように、シンプルな言葉と映像をセットで意識に浮かべ続けます。
そして、そのイメージを意識に残したまま、そのまま眠りに落ちるのを待ちます。効果を焦って「絶対にこの夢を見なければ」と力むと、かえって脳が緊張してしまい逆効果になることもあるとされています。軽い気持ちで、あくまで”お願いごと”程度の意識で続けることがコツです。
香りが夢の「感情」を変える ― 嗅覚と夢の科学
バラの香りと不快な匂いで、夢の”色”が変わった実験
夢の内容そのものではなく、夢の感情的なトーンに直接働きかける方法として、海外の研究で特に有名なのが「嗅覚」を使ったアプローチです。
ドイツ・マンハイム大学病院のボリス・シュトゥック氏と、睡眠研究者マイケル・シュレードル氏らの研究チームは、15人の健康な女性を対象に、レム睡眠中の被験者にバラの香りと、腐った卵のような不快な匂い(硫化水素)を、それぞれ別の夜に10秒間ずつ嗅がせるという実験を行いました。
その結果は非常にはっきりしたものでした。バラの香りを嗅がせた夜には、ほぼすべての夢がポジティブな感情の色合いを帯びていたのに対し、不快な匂いを嗅がせた夜には、夢の感情がはっきりとネガティブな方向に傾いたのです。興味深いことに、匂いそのものが夢のストーリーに直接登場することはほとんどなく、あくまで夢全体の”感情的な雰囲気”にだけ影響していたと報告されています。
なぜ匂いは眠っていても脳に届くのか
これには、嗅覚特有の脳の回路が関係しています。視覚や聴覚の情報は、一度「視床」と呼ばれる中継地点を経由してから、感情を処理する扁桃体や、記憶に関わる海馬に届きます。ところが嗅覚の情報だけは、この視床を経由せず、扁桃体や海馬にほぼ直接届く特殊な経路を持っています。
レム睡眠中は、論理的な判断を担う前頭前野の働きが弱まる一方で、感情を処理する扁桃体は活発に動いています。この状態で、扁桃体に直接届く嗅覚情報が入ってくると、夢の感情的な色合いに強く影響しやすくなると考えられているのです。
ただし、香りの効果には個人差もある
一方で、香りと夢の関係については、すべての研究が同じ結論を出しているわけではありません。2024年に学術誌『Scientific Reports』に発表された追試研究では、単に「一般的に好まれる香り」を寝室で漂わせるだけでは、夢の感情や起床後の気分に明確な変化は見られなかったと報告されています。この研究チームは、香りの心地よさそのものよりも、その香りが本人にとってどれだけ「馴染み深く、個人的に好きなもの」であるかが重要である可能性を指摘しています。
つまり、万人向けの「良い夢の香り」があるわけではなく、自分自身が心から安心できる、好きな香りを見つけることが重要だといえそうです。ラベンダーやバニラ、あるいは実家を思い出す懐かしい香りなど、自分にとって心地よいと感じる香りをディフューザーなどで軽く漂わせながら眠るのは、試してみる価値のある方法です。
栄養から夢にアプローチする ― ビタミンB6と夢の想起
オーストラリアの大規模ランダム化比較試験
良い夢を”作る”ためには、そもそも夢を思い出せなければ意味がありません。この点で興味深いのが、栄養と夢の関係を調べたオーストラリア・アデレード大学の研究です。
心理学者デンホルム・アスピー氏らの研究チームは2018年、100人の参加者を対象に、二重盲検・プラセボ対照というかなり厳密な条件のもとで、ビタミンB6(ピリドキシン)の摂取が夢に与える影響を調べました。参加者は、就寝直前に240ミリグラムのビタミンB6、あるいは見た目が同じ偽物の錠剤(プラセボ)を、5日間連続で摂取しました。
結果として、ビタミンB6を摂取したグループは、プラセボを摂取したグループに比べて、思い出せる夢の内容の量がおよそ64%も増加したことがわかりました。参加者からは、実験期間が進むにつれて夢の内容が次第にはっきりとしてきて、朝までに内容が薄れてしまうことが減ったという感想も報告されています。
ビタミンB6が変えたのは「量」であって「質」ではない
ここで注意したいのは、アスピー氏らの研究が明らかにしたのは、あくまで夢を思い出せる量の増加であって、夢の鮮やかさや奇妙さ、色彩感、あるいは夢そのものの感情的な心地よさには、統計的に意味のある変化が見られなかったという点です。
つまりビタミンB6は、「良い夢を見せてくれる薬」ではなく、「見た夢を思い出しやすくしてくれる栄養素」だと理解するのが正確です。とはいえ、これまで紹介してきたドリームインキュベーションやターゲテッド・ドリーム・インキュベーションといった技法は、そもそも自分がどんな夢を見たかを認識できなければ、効果を実感すること自体が難しくなります。その意味で、夢の想起力を高めることは、良い夢を”味わう”ための土台づくりとして、間接的に役立つ可能性があります。
なお、ビタミンやサプリメントの摂取については、体質や持病、服用中の薬との相性によって影響が異なります。試してみたい場合は、自己判断で高用量を摂取するのではなく、かかりつけ医や薬剤師に相談したうえで検討することをおすすめします。
寝室の温度が、夢の”怖さ”を左右する
「体温を1度下げられない部屋」は夢を過激にする
睡眠環境が悪夢のリスクに関わっているという指摘は、以前の記事「悪夢を見るのはなぜ?」でも睡眠不足やアルコールとの関連として紹介しましたが、今回はさらに踏み込んで、「室温」という観点を紹介します。
イギリス睡眠協会の元会長であるニール・スタンレー博士は、快眠のためには就寝時に体の深部体温がおよそ1度下がる必要があると説明しています。寝室が暖かすぎると、この体温低下がうまく起こらず、睡眠そのものが浅く不安定になります。その結果としてレム睡眠の割合が増え、夢がより鮮明に、そして時には悪夢のように激しくなりやすいというのが、スタンレー博士の見解です。同氏がすすめる理想的な寝室の室温は、摂氏およそ15.5度から18度とされています。
とはいえ、まだ”仮説”の域を出ない部分もある
一方で、この「室温と悪夢」の関係については、大規模な臨床研究による裏付けが十分に確立しているとまでは言えません。米国アレゲニー・ヘルス・ネットワーク睡眠研究所のダニエル・シェード博士は、寒い寝室が悪夢を引き起こすという直接的な科学的根拠は今のところ存在しないと指摘しており、悪夢の主な原因はむしろ不安や抑うつ、PTSDといった心理的な要因である可能性の方が高いとも述べています。
つまり現時点で言えるのは、「室温だけで悪夢が確実に防げる」というほど単純な話ではないものの、涼しく快適な寝室環境が、深い睡眠とレム睡眠のバランスを整えるうえで役立つ可能性は高いということです。エアコンや扇風機、寝具の素材などを工夫して、暑すぎない寝室を保つことは、良い夢のための土台づくりとして十分に試す価値があります。
「これから見る夢」をリハーサルする ― ポジティブ・イメージ・スクリプティング
悪夢の書き換えとは”逆方向”の使い方
以前の記事「悪夢を見るのはなぜ?」では、繰り返し見る悪夢の結末を、起きているときに前向きな展開へと書き換える「イメージ・リハーサル・セラピー(IRT)」という技法を紹介しました。IRTはもともと、すでに見てしまった悪夢を”修正”するための治療技法として発展してきたものです。
しかし海外の心理学者の間では、この「リハーサル」という考え方を、まだ見ていない、これから見たい夢に対して”先回り”で使うというアプローチも注目されています。いわば、悪夢の後始末としてのリハーサルではなく、良い夢を迎え入れるための予行練習としてのリハーサルです。
具体的な場面を、感情ごと思い描く
臨床心理士のテリー・ベイコウ氏は、就寝前に意図を持って心の状態を整えることが、夢の内容そのものだけでなく、翌朝の気分の明るさにもつながる可能性があると述べています。また、夢の専門家として知られるスザンヌ・オズマン氏は、細かいストーリーやセリフまで作り込む必要はなく、「ひとつの明確なテーマや情景、問いかけ」に意識を絞ることの方が効果的だと指摘しています。
具体的には、まず「どんな場面の夢を見たいか」をひとつだけ選びます。旅行先での楽しいひととき、大切な人との再会、達成感のある出来事など、自分が心から心地よいと感じられる場面が理想です。次に、その場面を目を閉じて思い浮かべながら、視覚的なイメージだけでなく、そのときの音や匂い、肌に触れる感覚、そして何より「どんな気持ちになるか」という感情まで含めて、数分間じっくりと味わいます。
このとき大切なのは、力を入れすぎないことです。これは「絶対に達成しなければいけない課題」ではなく、あくまで眠りに向かう心を穏やかに整えるための、リラックスした習慣として取り入れることがポイントだとされています。就寝前に不安や緊張を抱えたままこの練習をしても、かえって逆効果になることがあるため、まずは心身がリラックスした状態を作ってから、このイメージング作業に入ることが推奨されています。
実践編 ― 今夜からできる「良い夢のための夜間ルーティン」
ここまで紹介してきた研究をもとに、今夜から取り入れられる具体的なルーティンとして整理してみます。
1. 就寝・起床の時間をできるだけ一定に保つ
体内時計が整うことで、睡眠全体の質が安定します。特に、レム睡眠は眠りの後半になるほど長くなる性質があるため、睡眠時間そのものが短いと、夢を見る時間自体が減ってしまいます。この点については、以前の記事「夢はなぜすぐ忘れる?」でも詳しく紹介しています。
2. 寝室を涼しく、暗く、静かに保つ
理想的な室温の目安は摂氏15.5度から18度程度です。エアコンや扇風機、通気性の良い寝具を活用し、体の深部体温がスムーズに下がる環境を整えましょう。
3. 就寝前のアルコールは控えめにする
アルコールはレム睡眠を一時的に抑え、その反動で後半の睡眠にレム睡眠のリバウンドが起きやすくなります。これが夢を不安定にさせる一因になることもあります。
4. 見たい夢の”ワンシーン”をひとつだけ決める
漠然としたテーマではなく、「誰と」「どこで」「どんな気持ちで」過ごしている場面かを、できるだけ具体的にひとつだけ選びます。
5. 眠りに落ちる直前に、その場面を短いフレーズと一緒に思い浮かべる
「ビーチで波の音を聞いている」のように、短い言葉とイメージをセットにして、うとうとしてきたタイミングで繰り返します。力まず、軽い気持ちで行うことがポイントです。
6. 好きな香りを、無理のない範囲で取り入れる
ラベンダーやバニラなど、自分自身が心から心地よいと感じる香りをディフューザーなどで軽く漂わせるのも一案です。香りは万人共通の正解があるわけではなく、自分にとっての「安心できる匂い」を選ぶことが大切です。
7. 目が覚めても、すぐには飛び起きない
朝、目が覚めた瞬間はできるだけ体を動かさず、しばらく夢の余韻の中に留まりましょう。そのまま枕元のノートに、覚えている内容を断片的にでも書き留める習慣をつけると、夢を思い出す力そのものが徐々に鍛えられていきます。
8. サプリメントを試す場合は専門家に相談する
ビタミンB6のように夢の想起に関するエビデンスが報告されている栄養素もありますが、自己判断での高用量摂取は避け、必要であれば医師や薬剤師に相談したうえで取り入れましょう。
これらはすべてを完璧にこなす必要はありません。むしろ、ひとつかふたつだけを選んで、気楽に続けてみることの方が長続きしやすく、結果的に効果も実感しやすいというのが、多くの研究者が共通して指摘しているポイントです。
よくある質問
- 見たい夢の内容を自分で選ぶことはできますか?
-
ある程度可能とされています。「ドリームインキュベーション」という手法では、寝る前に見たいテーマや解決したい問題を思い浮かべ、そのイメージを意識に残したまま眠りにつくことで、その内容の夢を見やすくなるとハーバード大学の心理学者ディアドラ・バレット氏が提唱しています。
- MITの「狙った夢を見る」実験ではどんな結果が出ましたか?
-
うとうとするたびに「木のことを考えて」という音声メッセージを聞かせた参加者は、67%の夢に木に関連する内容が含まれていました(メッセージなしの参加者はわずか3%)。さらに木をテーマにした夢を見た参加者は、目覚めた後の創造性テストでも高い成績を示しました。
- いい夢を見た後、目が覚めたらすぐに動いてもいいですか?
-
おすすめできません。目覚めた瞬間にすぐ体を動かすと夢の内容の半分近くが失われてしまうとされており、しばらく横になったまま夢の余韻に浸ることが大切だとバレット氏は述べています。
- 香りで夢の内容を変えることはできますか?
-
可能性があるとされています。バラのような心地よい香りと不快な匂いを眠っている人に嗅がせる実験では、香りの種類によって夢の感情的な「色」が変化したことが確認されています。ただし効果には個人差もあります。
まとめ ― 良い夢は、待つものではなく”迎えにいく”もの
ここまで、良い夢を見るための方法を、海外の研究をもとに紹介してきました。
夢は、起きている間の自分の関心事や感情と地続きにつながっているという継続性仮説から始まり、古代の神殿にまでさかのぼるドリームインキュベーションという発想、MITが開発した最先端のターゲテッド・ドリーム・インキュベーション、香りが夢の感情に与える影響、ビタミンB6と夢の想起の関係、そして寝室の温度という身近な環境要因まで、切り口はさまざまでした。
これらに共通しているのは、良い夢というものが、単なる運や偶然ではなく、ある程度まで自分自身の行動や環境づくりによって近づけていけるものだという考え方です。もちろん、狙った通りの夢を100%見られるようになるわけではありません。しかし、就寝前にどんな気持ちで過ごすか、どんな場面を思い描くか、どんな香りに包まれて眠るか。そうした小さな選択の積み重ねが、夢という、ふだんはコントロールできないと思われがちな体験に、少しずつ影響を与えていくのです。
以前の記事では、悪夢がなぜ起きるのかという”守り”の視点、そして夢がなぜすぐに消えてしまうのかという”記憶”の視点を紹介してきました。今回はそこに、良い夢を”迎えにいく”という、より積極的な視点を加えることができたのではないかと思います。
今夜、眠りにつく前に、ほんの数分だけ、自分が心から心地よいと感じる場面を思い浮かべてみてください。それだけで、あなたの今夜の夢は、少しだけ違うものになるかもしれません。
参考文献・参照元
- Domhoff, G. W. “The Continuity Hypothesis.” DreamResearch.net (University of California, Santa Cruz)
- Barrett, D. The Committee of Sleep. Oneiroi Press.
- “Dream incubation”, Wikipedia
- Haar Horowitz, A. et al. (2020). “Dormio: A targeted dream incubation device.” Consciousness and Cognition.
- “A new way to control experimentation with dreams”, MIT News
https://news.mit.edu/2020/targeted-dream-incubation-dormio-mit-media-lab-0721 - “‘Think of a tree’”, Inverse
https://www.inverse.com/innovation/dormio-sleep-wearable-dream-experimentation - Schredl, M. et al. (2008). Presented at the American Academy of Otolaryngology–Head and Neck Surgery Annual Meeting. Reported via ScienceDaily, CBS News, National Geographic.
- Knötzele, J. et al. (2024). “Nocturnal exposure to a preferred ambient scent does not affect dream emotionality or post-sleep core affect valence in young adults.” Scientific Reports.
- Aspy, D. J. et al. (2018). “Effects of Vitamin B6 (Pyridoxine) and a B Complex Preparation on Dreaming and Sleep.” Perceptual and Motor Skills.
- “Vitamin B6 helps people recall their dreams”, ScienceDaily / University of Adelaide
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/04/180427100258.htm - Dr. Neil Stanley (British Sleep Society), reported via Fox5NY, CNN/Local10, The Weather Network
- Dr. Daniel Shade (Allegheny Health Network Sleep Institute), reported via Uratex Sleep Blog
- Krakow, B. & Zadra, A. (2006). “Clinical management of chronic nightmares: imagery rehearsal therapy.” Behavioral Sleep Medicine.
- Bacow, T. (interview), Osmun, S. (interview), “Dream Incubation: How to Set Dream Intentions”, Yoga Journal
この記事は、公開されている研究・文献をもとに一般的な情報として作成したものであり、医学的な診断や治療、栄養指導を目的としたものではありません。睡眠や心身の不調、悪夢が続くといったお悩みがある場合は、自己判断で対処せず、必ず医師や専門機関にご相談ください。本記事の内容を実践した結果生じたいかなる不利益についても、当ブログおよび筆者は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

