スマホを使うほど頭が悪くなる?海外の脳科学データで解き明かす「賢さ」の正体とAI時代の付き合い方

スマートフォンは、本当に便利です。

わからないことがあればその場で検索できて、道に迷うこともなく、友人とはいつでもつながれて、写真も動画もワンタップで残せる。数年前まではSFの世界だったことが、今はポケットの中で当たり前に起きています。

でも、ふと立ち止まって考えたことはないでしょうか。

「これだけ便利な道具を使いこなせている自分は、果たして賢くなっているのだろうか」と。

昔なら地図を頭に入れて目的地に向かい、電話番号を暗記し、知らない言葉があれば辞書を引いて意味を調べていました。今はその全部をスマホがやってくれます。作業がラクになったのは間違いありません。ただ、「ラクになったこと」と「賢くなったこと」は、実はまったく別の話かもしれないのです。

さらに最近はAI(人工知能)も一気に普及しました。文章もアイデアも、AIに聞けば数秒で答えが返ってきます。スマホの登場で変わり始めた私たちの脳は、AIの登場でさらにどう変わっていくのでしょうか。

この記事では、日本国内ではあまり紹介されていない海外の学術論文や大学の研究データを中心に、「スマートフォンと知性の関係」を徹底的に掘り下げていきます。脳科学的な話も出てきますが、専門用語はできるだけかみ砕いて説明するので、安心して読み進めてください。

読み終わる頃には、スマホやAIとどう付き合えば「本当に賢くなれるのか」が、きっと見えてくるはずです。

目次

第1章 便利さと賢さは別のモノサシで測るべき理由

まず最初にはっきりさせておきたいのは、「便利な道具を使いこなせること」と「地頭が良くなること」はイコールではない、という点です。

電卓を使いこなせる人が暗算に強いとは限りませんし、カーナビを使いこなせる人が地図を読む力に長けているとも限りません。道具は、人間の代わりに特定の作業をやってくれるからこそ便利なのであって、その作業を人間自身がやらなくて済むようになった分、その能力を使う機会そのものが減っていく、という側面があります。

これは筋肉のたとえで考えるとわかりやすいかもしれません。エレベーターは移動をラクにしてくれる素晴らしい発明ですが、エレベーターばかり使っていたら脚の筋力は当然落ちていきます。脳の機能の中にも、これと似た「使わなければ衰える」性質を持つものがあることが、複数の研究から示されています。

スマートフォンが本格的に普及したのは2010年前後、日本でiPhoneが広がり始めたのもこの頃からです。それから10年以上が経ち、脳科学の世界ではすでに「スマホが人間の認知機能にどんな影響を与えるか」を調べた研究が数多く蓄積されています。次の章から、その具体的なデータを見ていきましょう。

第2章 スマホは「そこにあるだけ」で頭の働きを鈍らせる「ブレインドレイン」

まず紹介したいのが、2017年にアメリカのテキサス大学オースティン校のエイドリアン・ウォード氏らが「Journal of the Association for Consumer Research」に発表した、非常に興味深い実験です。

研究チームは参加者を3つのグループに分け、それぞれ異なる場所にスマートフォンを置いた状態で集中力や記憶力を測るテストを受けてもらいました。1つ目のグループは机の上にスマホを裏返して置く、2つ目のグループはカバンやポケットにしまう、3つ目のグループは別の部屋に置いてくるという条件です。

驚くべきことに、スマホの電源が入っているかどうかや、通知が来るかどうかは一切関係ありませんでした。ただ「自分のスマホが手の届く範囲にあるかどうか」だけで、テストの成績に明確な差が出たのです。しかもスマホを別室に置いたグループが最も高い成績を収め、机の上に置いたグループが最も低い成績になりました。

研究チームはこの現象を「ブレインドレイン(頭脳の流出)」と名付けました。人間の脳には、注意をコントロールするための資源(キャパシティ)が限られています。スマホが視界に入ると、私たちは無意識のうちに「今は見ない」「今は触らない」と自分を抑制し続けることになり、そのために脳のリソースの一部が常に消費されてしまう、というのが研究者たちの説明です。本人は「集中できている」と感じていても、実は脳の余力の一部がスマホを気にすることに割かれてしまっている、というわけです。

さらに興味深いのは、この影響がスマホ依存度の高い人ほど強く出たという点です。「スマホがないと不安になる」というタイプの人ほど、スマホが近くにあるだけで本来の実力を発揮しにくくなっていました。

なお、その後に行われた複数の追試研究をまとめたメタ分析(2023年発表)では、ブレインドレイン効果そのものは条件によって現れ方にばらつきがあるものの、特に「ワーキングメモリ(作業記憶)」への影響については比較的一貫して確認されている、と報告されています。勉強や仕事の効率を上げたいなら、スマホを「サイレントにする」だけでなく「視界の外・手の届かない場所に置く」ことが、想像以上に効果的だといえそうです。

第3章 写真を撮った瞬間、記憶は薄れていく

旅行先やコンサート会場で、目の前の景色よりもスマホの画面を見ている時間のほうが長かった、という経験はないでしょうか。

アメリカのフェアフィールド大学の心理学者、リンダ・ヘンケル氏が2014年に「Psychological Science」誌に発表した研究は、この行動が記憶に与える影響を明らかにしました。

実験では、学生たちを美術館のツアーに連れて行き、いくつかの展示物は「じっくり観察するだけ」、別の展示物は「写真を撮る」という条件で鑑賞してもらいました。翌日に記憶テストを行ったところ、写真を撮った展示物のほうが、名前や細部、展示されていた場所までも思い出せる割合が明確に低かったのです。ヘンケル氏はこの現象を「写真撮影による記憶障害効果(photo-taking-impairment effect)」と呼んでいます。

背景にあるのは「カメラに任せておけば大丈夫」という無意識の油断です。人間の脳は、外部に記録手段があると判断すると、自分自身でその情報をしっかり処理しようとする努力を減らしてしまう傾向があります。シャッターを切った瞬間、脳の中では「これはもう覚えなくていい」というスイッチが入ってしまうようなイメージです。

ただし、この研究にはもう一つ重要な発見があります。展示物の全体をただ撮るのではなく、細部にズームインして撮影した場合には、この記憶低下効果がほとんど見られなかったのです。むしろズームインした部分だけでなく、その周辺の記憶までしっかり残っていました。ズームインという行為には「よく見て、狙いを定める」という能動的な注意が必要になるため、単なる「とりあえずパシャリ」とは脳の使い方が根本的に違う、というのがヘンケル氏の解釈です。

つまり、スマホのカメラそのものが悪いわけではなく、「よく見ずに記録だけして満足してしまう」使い方が、記憶に残らない一番の原因だといえます。

第4章 「あとで検索すればいい」が記憶力を弱める「Google効果」

もう一つ、記憶に関する非常に有名な研究を紹介します。2011年、コロンビア大学のベッツィー・スパロウ氏らの研究チームが世界的科学誌「Science」に発表した、いわゆる「Google効果」です。

実験では、参加者にいくつかの雑学的な知識を入力してもらい、その際に「あなたが入力した内容は、あとで確認できるようにコンピューターに保存されます」と伝えるグループと、「入力内容は消去されます」と伝えるグループに分けました。その後、記憶テストを行ったところ、「あとで確認できる」と伝えられたグループのほうが、内容そのものを覚えている割合が明らかに低かったのです。

さらに面白いのは、参加者たちが「情報の中身」よりも「情報がどのフォルダに保存されているか」のほうをよく覚えていた、という結果です。スパロウ氏らは、これを「トランザクティブ・メモリ(交流記憶)」という概念で説明しています。もともと人間は、夫婦や友人同士で「これは自分が覚える」「あれはあの人に聞けばいい」と、記憶を分担し合う性質を持っています。インターネットや検索エンジンは、この「頼れる相手」の役割を人間から機械へと肩代わりさせている、というわけです。

これ自体は必ずしも悪いことではありません。人間の記憶容量には限りがあるので、すべてを頭に詰め込むのではなく、重要な部分だけ覚えて、あとは外部に「アウトソース」するというのは、ある意味で合理的な戦略でもあります。実際、この後の章で紹介するように、こうした「認知的オフローディング(頭の中身を外部に預ける行為)」には前向きな側面があることも研究でわかってきています。

ただし問題は、「検索すればすぐわかる」という安心感が強すぎると、そもそも自分の頭で考えたり覚えたりしようとする努力そのものを放棄してしまいやすくなる、という点です。知識を「持っている」状態と、必要なときに「検索できる」状態は、似ているようで脳の中ではまったく違う処理が行われています。

第5章 私たちの集中力は、この20年でどれだけ短くなったのか

「最近、なんだか集中力が続かない」と感じている人は多いはずです。これは気のせいではなく、実際にデータとして裏付けられています。

カリフォルニア大学アーバイン校の情報学者、グロリア・マーク氏は20年以上にわたり「人が1つの画面にどれくらい集中していられるか」を追跡調査してきました。その結果は驚くべきものです。2004年の調査では、平均して2分30秒ほど1つの画面に集中していられました。それが2012年には75秒まで短縮し、2016年以降の調査では、なんと平均47秒、中央値にいたっては40秒にまで落ち込んでいます。つまりこの十数年で、私たちが1つの作業に集中していられる時間は、およそ3分の1にまで縮んでしまったことになります。

さらに厄介なのは、一度集中が途切れると、元の作業に意識を戻すまでに平均で約25分もかかるという点です。スマホの通知を1回チェックするたびに、私たちは知らず知らずのうちに「25分の集中力の借金」を背負っている、というイメージを持つとわかりやすいかもしれません。

なぜこうなってしまうのでしょうか。イギリス・マンチェスター大学のジョセフ・ファース氏らが2019年に「World Psychiatry」誌に発表したレビュー論文では、インターネットやスマホの利用が私たちの「注意力」「記憶」「社会的認知」の3つの領域に影響を与える可能性を、多数の神経科学研究をもとに整理しています。この論文によれば、SNSや通知を通じて常に複数の情報源へと注意を分散させる「メディア・マルチタスキング」の習慣が、1つのことに長く集中し続ける能力を弱めている可能性が指摘されています。特に発達段階にある子どもの場合、この傾向がより顕著に表れることも報告されており、研究チームは2024年に発表した続報論文でも、インターネット利用の影響は年齢や個人差によって大きく異なることを重ねて強調しています。

「昔の人のほうが我慢強かった」という単純な精神論ではなく、常に何かに反応することを求められる環境そのものが、私たちの脳の使い方を変えてしまっている、という捉え方のほうが、科学的には正確だといえそうです。

第6章 SNSとソシャゲに奪われているのは「時間」だけではない

ここまでは主に脳の働き方そのものへの影響を見てきましたが、もっとシンプルな問題もあります。それは「勉強や仕事に使えたはずの時間そのものが奪われている」という機会損失です。

イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のルイ=フィリップ・ベランド氏とリチャード・マーフィー氏が2016年に発表した研究は、この点を数字で裏付けています。研究チームは、イギリス国内91校、13万人以上の生徒を対象に、各学校の携帯電話の利用ルールと、16歳時点の全国統一試験の結果を照らし合わせて分析しました。

その結果、校内での携帯電話の使用を禁止した学校では、試験の成績が平均で標準偏差の6.4%分向上していました。これは「1週間あたり1時間分の追加授業」あるいは「年間5日分、学期を延長した」のとほぼ同じ効果に相当すると研究者たちは説明しています。特に効果が大きかったのは、もともと成績が振るわなかった生徒たちで、成績の伸び幅は平均の2倍以上、標準偏差の14%分にも達しました。研究者たちは、「成績上位の生徒はスマホがあっても集中できる一方、成績が伸び悩みがちな生徒ほどスマホによる誘惑の影響を強く受けやすい」と分析しています。

なお、この研究に対しては「効果量そのものは決して大きくない」という指摘をする研究者もおり、「携帯電話がある=成績が下がる」と単純に結論づけるのは早計だという議論も存在します。とはいえ、SNSの通知チェックやソーシャルゲームのスタミナ回復待ちに費やす数分間が積み重なれば、1日、1週間、1年という単位で見たときに、決して小さくない「勉強できたはずの時間」が失われていくことは、想像に難くありません。

スマホそのものが悪者なのではなく、「気づいたら30分経っていた」という時間の使い方の設計そのものが、SNSやソーシャルゲームのアプリには非常に巧みに組み込まれている、という視点を持っておくことが大切です。

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第7章 人類のIQは本当に下がり始めているのか

ここでもう一つ、世界的に話題になった研究を紹介します。「フリン効果の反転」と呼ばれる現象です。

20世紀を通じて、先進国の人々のIQスコアは10年ごとに平均約3ポイントずつ上昇し続けてきました。栄養状態の改善や教育の普及が主な要因とされ、これを発見した研究者の名前にちなんで「フリン効果」と呼ばれています。

ところが、ノルウェーのラグナル・フリッシュ経済研究センターのベルント・ブラツベルグ氏とオーレ・ローゲベルグ氏が2018年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表した研究は、この右肩上がりの傾向が止まっていることを示しました。1970年から2009年にかけて徴兵検査を受けた男性、実に73万人分ものIQテストの結果を分析したところ、1975年前後に生まれた世代をピークに、それ以降に生まれた世代ではIQスコアが世代あたり平均7ポイントも低下していることがわかったのです。

研究者たちは、この変化が遺伝的な要因ではなく、環境的な要因によるものだと結論づけています。同じ家庭内のきょうだいを比較しても同様の傾向が見られたことから、教育のあり方の変化や、読書量の減少、メディアとの接し方の変化などが背景にある可能性を指摘しています。

ここで一つ、誠実にお伝えしておきたい点があります。この研究で分析されたのは1962年から1991年生まれの人たちのデータであり、低下の傾向自体は1970年代後半の生まれの世代からすでに始まっていました。スマートフォンが登場したのは2007年ですから、このIQ低下の「原因」をスマートフォンだけに求めるのは、時系列的に見て正確ではありません。むしろ、テレビの普及や読書習慣の変化、教育制度の変化など、もっと幅広い「メディア環境・生活環境の変化」が背景にあると考えるべきでしょう。

とはいえ、この研究が突きつけている「知的能力の伸びは自動的には続かない」という事実、そして環境の変化が世代単位で認知能力に影響を及ぼしうるという事実は、スマホやAIが生活の隅々にまで浸透した「今」を生きる私たちにとっても、決して他人事ではないはずです。

第8章 AIの登場が、事態をさらに加速させている

スマホによる影響だけでもこれだけの研究が積み重ねられてきましたが、生成AIの急速な普及は、この状況にさらに新しい変数を加えつつあります。

2025年、マイクロソフトリサーチとカーネギーメロン大学の研究チームが発表した論文は、その一端を示しています。研究チームは、ChatGPTやCopilotなどの生成AIを週1回以上業務で使っている「知識労働者」319人を対象に調査を行い、936件もの具体的な業務事例を分析しました。

その結果見えてきたのは、生成AIに対する「信頼度」が高い人ほど、AIが出した回答を批判的に検証する労力を減らす傾向がある、という構図です。逆に、自分自身のスキルに自信がある人ほど、AIの回答であっても鵜呑みにせず、しっかり検証・修正を加えたうえで使っている傾向が見られました。研究チームはこれを「自動化の皮肉」と呼んでいます。ルーティン作業を機械に任せることで、人間は例外的な事態への対応力や判断力を鍛える機会そのものを失っていく、という指摘です。日々の小さな判断を積み重ねることで維持されてきた「思考の筋力」が、使われないまま衰えていくリスクがある、というわけです。

もう一つ、2025年に公開されて大きな話題を呼んだのが、MITメディアラボのナタリア・コスミナ氏らによる「Your Brain on ChatGPT(あなたの脳とChatGPT)」という研究です。18歳から39歳までの54人の参加者を、「ChatGPTを使ってエッセイを書くグループ」「Google検索を使って書くグループ」「何のツールも使わずに書くグループ」の3つに分け、脳波(EEG)を測定する装置を装着した状態でエッセイを書いてもらいました。

その結果、ChatGPTを使ったグループは、他の2グループと比べて脳内32か所の領域における神経的な結びつき(脳の活動量)が最も低いことが確認されました。さらに興味深いのは、最初にChatGPTを使ってエッセイを書き続けたあと、ツールなしで書くように条件を変えたグループでは、脳の活動レベルがなかなか元の水準まで戻らなかった、という点です。反対に、最初はツールなしで書いていた人が後からChatGPTを使い始めたグループでは、脳の活動パターンにこれほど大きな落ち込みは見られませんでした。

これらの研究が示しているのは、「AIを使うこと自体が悪」ということではありません。ただし、「考える」という工程そのものをまるごとAIに委ねてしまう使い方を続けると、思考力を支える脳の働きが、じわじわと鈍っていく可能性がある、ということは、頭の片隅に置いておくべき重要な事実だといえるでしょう。

第9章 それでも、悲観する必要はない理由

ここまで、スマホやAIが認知機能に与えるネガティブな影響ばかりを紹介してきましたが、研究の世界にはこれと対をなす、もう少し希望の持てるデータも存在します。

イギリス・オックスフォード大学のアンドリュー・プシビルスキー氏とカーディフ大学のネッタ・ワインスタイン氏が2017年に「Psychological Science」誌に発表した研究では、12万人を超えるイギリスの若者を対象に、デジタル機器の利用時間と心の健康状態の関係を分析しました。その結果導き出されたのが「デジタルのゴルディロックス仮説」と呼ばれる考え方です。

童話「三匹のくま」に登場するゴルディロックスが、熱すぎず冷たすぎない「ちょうどいい」スープを選んだように、デジタル機器の利用も「多すぎず少なすぎない、ちょうどいい量」のときに、心の健康度が最も高くなることがわかったのです。具体的には、スマートフォンの場合、平日1日あたり1時間弱程度の利用が最も良好な結果と関連していました。興味深いことに、まったく使わない「ゼロ利用」の若者も、心の健康度は決して高くありませんでした。適度なデジタル機器の利用は、友人関係の維持や情報収集など、生活の充実に役立つ側面があることを、この研究は示しています。

また、第4章で紹介した「Google効果」についても、必ずしも悪い面ばかりではありません。人間の記憶容量には限りがあるからこそ、覚える必要のない情報を外部に預け、その分の脳のリソースを、より創造的な思考や複雑な問題解決に振り向けられる、という考え方もできます。実際、認知的オフローディングに関するその後の研究では、単純な記憶作業を外部化することで、かえって新しいアイデアを生み出す作業のパフォーマンスが向上するケースも報告されています。

つまり結論としては、「スマホやAIを使うこと」自体が問題なのではなく、「何を、どれくらい、どんな使い方で」利用するかという設計が、私たちの脳にとってプラスにもマイナスにもなりうる、ということです。

第10章 スマホ・AI時代に、本当に「賢くなる」ための付き合い方

ここまで紹介してきた研究を踏まえると、私たちがすべきことは「スマホやAIを断つ」という極端な選択ではなく、脳の仕組みに合わせて「使い方を設計し直す」ことだとわかります。具体的な工夫をいくつか紹介します。

1. 集中したい時間は、スマホを「別室」に置く
第2章のブレインドレイン研究が示す通り、サイレントモードにするだけでは不十分です。勉強や仕事に集中したい時間帯は、スマホを視界にも手の届く範囲にも置かない、という物理的な距離を作ることが、最もシンプルで効果の高い対策です。

2. 「撮る」より先に「見る」を意識する
旅行や大切なイベントでは、まず数十秒だけでも肉眼でしっかり眺めてから撮影する、という順番を意識してみてください。第3章で見たように、細部にズームインして能動的に注意を向ける撮り方は、記憶への悪影響をかなり打ち消してくれます。

3. 「調べれば済むこと」と「自分の頭で考えるべきこと」を仕分ける
固有名詞や単純な事実は検索に任せて構いません。しかし、物事の因果関係を考えたり、複数の情報を比較して自分なりの結論を出したりするプロセスまで、検索やAIの回答をそのままコピーして済ませてしまうと、思考力を鍛える機会そのものを手放すことになります。

4. AIには「答え」ではなく「壁打ち相手」としての役割を求める
第8章で紹介した研究が示すように、AIの回答を無批判に受け入れる姿勢は思考力の低下につながりやすい一方、自分の考えを持ったうえでAIに検証や反論をさせる使い方は、むしろ思考を深めるトレーニングになります。「これで合ってる?」と聞くのではなく、「この考え方の弱点はどこ?」と問いかける習慣をつけると、AIは強力な思考パートナーになってくれます。

5. あえて「不便」を選ぶ時間を作る
たまには手書きでメモを取る、地図アプリに頼らずに目的地まで歩いてみる、暗算で計算してみる。こうした「あえての不便」は、普段スマホに委ねている脳の機能を、意図的に呼び覚ますトレーニングになります。

6. 通知をオフにし、「まとめてチェックする」時間を決める
第5章で見たように、1回の通知チェックの代償は決して小さくありません。通知はできる限りオフにし、SNSやメールの確認は1日数回、時間を決めてまとめて行うようにするだけでも、深い集中状態(いわゆる「フロー」)に入りやすくなります。

これらはどれも特別なことではなく、今日からすぐに始められる小さな工夫ばかりです。大切なのは、スマホやAIを「敵」と見なすのではなく、「使い方次第で味方にも足かせにもなる道具」として、主体的にコントロールする意識を持つことです。

まとめ スマホやAIに「使われる」のではなく「使いこなす」時代へ

ここまで、ブレインドレイン、写真撮影による記憶障害効果、Google効果、集中力の低下、勉強時間の機会損失、フリン効果の反転、そして生成AIが批判的思考に与える影響まで、海外の学術研究を中心に幅広く見てきました。

こうして並べてみると、「スマホを使えば使うほど自動的に賢くなる」という単純な図式が成り立たないことは、かなりはっきりしてきたのではないでしょうか。むしろ、何も考えずに便利さに身を委ねてしまうと、集中力、記憶力、そして自分の頭で考える力といった、人間らしい知的能力の土台の部分が、少しずつ静かに削られていくリスクがあることを、多くの研究が示しています。

一方で、ゴルディロックス仮説が教えてくれるように、適度な範囲でスマホやデジタル機器を活用することは、生活を豊かにし、心の健康にもプラスに働くことがわかっています。要は「量」と「使い方」の設計次第だということです。

これからの時代、スマホやAIをまったく使わずに生きていくことは、現実的には難しいでしょう。だからこそ重要になるのは、「これらの道具が自分の脳にどう作用するのか」を正しく理解したうえで、意識的に距離感をコントロールする力です。便利な道具に思考停止で流されるのではなく、道具の特性を理解し、自分の意志で使いどころを選び取れる人こそが、これからの時代における本当の意味での「賢い人」なのかもしれません。

スマホやAIは、使う人を賢くすることもできれば、その逆もまた起こりうる、両刃の剣です。その刃をどちらに向けるかは、今この記事を読んでいるあなた自身の、今日からの小さな選択にかかっています。


参考文献・出典

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  • Kosmyna, N. et al. (MIT Media Lab) (2025). Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task.(プレプリント, 2025年6月公開)
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ご注意(免責事項)

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この記事を書いた人

手帳が続かない・考えすぎて動けない、そんな時期を何度も経験してきました。
手帳歴20年以上、GTD・振り返り・小さな習慣を実践しながら、少しずつ自分なりの整理術を見つけてきた人間です。
「頑張りすぎない改善」をテーマに、手帳・習慣化・心理・オカルト・日常の気になることを丁寧に発信しています。

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