ゲームの3D酔いに酔い止め薬は効くのか?科学的根拠から本当に効く対策まで徹底解説

シヴィエさん

このゲーム…3Dで視点が激しく動くから頭が痛くなってきたよ…

アマエビちゃん

それは3D酔いだね!

「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」で高い場所からグライダーで滑空した瞬間、なぜか頭がグラグラする。「スプラトゥーン」のジャイロ操作で画面がぐるぐる動くたびに、胃のあたりがムカムカしてくる。友達は平気な顔でプレイしているのに、自分だけ気持ち悪くなってコントローラーを置いてしまう——。

いわゆる「3D酔い」「ゲーム酔い」と呼ばれる症状です。せっかく楽しみにしていたゲームなのに、数十分でソファに横になる羽目になった経験がある人は少なくないはずです。

そこで多くの人が真っ先に考えるのが「酔い止め薬を飲んでおけば大丈夫なのでは」という発想です。バスや船に乗る前に酔い止めを飲むのと同じ感覚で、ゲームの前に酔い止めを飲めば3D酔いも防げるのでしょうか。

結論を先に言うと、答えは「イエスでもありノーでもある」という、少し歯切れの悪いものになります。この記事では、国内外の論文や医療系の文献、ゲーム機・VR機器メーカーが公表している健康に関する注意書きなどを幅広く調べたうえで、次のような疑問に一つずつ答えていきます。

  • そもそもなぜゲームで「酔う」という現象が起きるのか
  • 乗り物酔いと3D酔いは同じものなのか、違うものなのか
  • 酔い止め薬は3D酔いに対して本当に効果があるのか
  • 3D酔いはどれくらいの時間で治まるのか
  • 3D酔いに「慣れる」ことはできるのか、酔わない体質になれるのか

できるだけ専門用語を避け、誰が読んでも理解できる言葉でまとめていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。あなたが3D酔いしやすいタイプでも、まったく酔わないタイプでも、きっと新しい発見があるはずです。

目次

第1章 そもそもなぜゲームで「3D酔い」は起きるのか

3D酔いの正体を理解するために、まずは体の仕組みから見ていきましょう。

私たちの体は「自分が今どのように動いているか」を把握するために、主に3つの感覚を組み合わせて使っています。目から入る視覚情報、耳の奥にある三半規管や耳石器が感じ取る揺れや傾き(専門的には前庭感覚と呼ばれます)、そして筋肉や関節が感じる体の姿勢の情報です。普段はこの3つの感覚がぴったり一致しているため、私たちは違和感なく体を動かすことができます。

ところがゲームやVRの映像は、この一致関係を崩してしまいます。画面の中ではキャラクターが猛スピードで走ったり、視点がぐるぐる回転したりしていますが、実際にプレイしているあなたの体はソファやイスに座ったまま、ほとんど動いていません。目は「自分は今すごい速さで移動している」という情報を脳に送るのに、耳の奥の感覚器官は「体はまったく動いていない」という正反対の情報を送ってくる。この情報の食い違いこそが、3D酔いの主な原因だと考えられています。

この考え方は学術的には「感覚矛盾説(センサリーコンフリクト理論)」と呼ばれ、1975年に心理学者のリーズンとブランドが提唱して以来、動揺病(乗り物酔いなど体が揺れることで起こる不調全般を指す医学用語です)を説明する最も有力な理論とされています。視覚だけで自分が動いているかのように感じる現象は「ベクション」と呼ばれ、このベクションが強く生じるゲームほど、視覚と平衡感覚の食い違いが大きくなり、酔いやすくなる傾向があることが複数の研究で報告されています。

なぜ体はこの程度の情報の食い違いで気持ち悪くなってしまうのでしょうか。有力な仮説の一つに、進化の過程で身についた防御反応だとする考え方があります。大昔、人間の祖先にとって「目に映る景色と体の感覚が一致しない」という状態は、毒キノコや腐った食べ物を口にして神経系に異常が起きているサインだった可能性があります。そのため脳は感覚の矛盾を検知すると、念のため胃の中身を吐き出させて解毒しようとする、いわば安全装置的な反応を進化させたのではないかというわけです。この説がすべてを説明できるわけではありませんが、3D酔いが「病気」ではなく、体に備わったごく自然な防御反応の延長線上にあるものだと理解しておくと、少し気が楽になるかもしれません。

なお近年の研究では、感覚矛盾説だけでなく、体の姿勢を保つバランス制御がうまくいかなくなることが酔いの引き金になるという「姿勢不安定説」や、脳が視覚情報から次に起こることを予測し、その予測と実際の感覚がずれることでストレス反応が生じるとする「予測誤差説」なども提唱されており、3D酔いの仕組みは一つの理論だけでは説明しきれない、複合的な現象であることがわかってきています。

第2章 乗り物酔いと3D酔い、実は「原因が正反対」だった

「3D酔いって結局、乗り物酔いと同じものでしょう?」と思っている人は多いのではないでしょうか。症状だけを見れば、どちらも吐き気やめまい、冷や汗、頭痛といった非常によく似た不調が現れます。学術的にも、ゲームやVRで起こる酔いは「サイバーシックネス(VR酔い)」や「視覚誘発性動揺病(VIMS)」と呼ばれ、乗り物酔い(モーションシックネス)の一種として分類されています。

しかし両者には見逃せない違いがあります。それは「感覚の矛盾がどちら向きに起きているか」という点です。

バスや車、船で起こる古典的な乗り物酔いの場合、耳の奥の感覚器官は「体が揺れている、動いている」という情報を正しく感じ取っています。一方で、車内で本を読んだり、スマートフォンを見ていたりすると、視界に入るのは静止した本やスマホの画面だけで、目は「自分は動いていない」という情報を送ってしまいます。つまり「体は動いていると感じているのに、目は動いていないと感じている」というズレが乗り物酔いの正体です。

ところがゲームやVRで起こる3D酔いは、この関係がまったく逆になります。プレイヤーの体はイスに座ったまま静止していて、耳の奥の感覚器官は「動いていない」と正確に感じ取っています。それなのに目に映る映像だけが激しく動き回るため、「目は動いていると感じているのに、体は動いていないと感じている」という、乗り物酔いとは正反対のズレが生じるのです。海外の医療系サイトでは、この関係性を指して「VR酔いは、船酔いを鏡に映したような、正反対の感覚矛盾である」と表現している解説もあり、非常に的を射た説明だと感じます。

原因となる矛盾の向きが逆であるという事実は、実は次の章で説明する「酔い止め薬が本当に効くのかどうか」という問題に、とても重要な意味を持ってきます。

ちなみに似た言葉に「シミュレーター酔い」というものもあります。これはフライトシミュレーターなどで、映像のわずかな遅延(実際に体を動かしてから画面に反映されるまでのタイムラグ)が加わることで起こる酔いを指し、視覚だけが原因のVR酔いよりも、さらに複合的な原因で発生するとされています。ゲーム機の性能が向上し、映像の遅延がほとんど気にならなくなった現在でも3D酔いがなくならないのは、遅延の問題以上に、視覚と平衡感覚そのものの食い違いが根本原因になっているためだと考えられます。

第3章 酔い止め薬は3D酔いに効くのか、成分から徹底検証

いよいよ本題です。ドラッグストアで買える市販の酔い止め薬は、3D酔いに対して本当に効果があるのでしょうか。結論から言うと「ある程度は効果が期待できるが、乗り物酔いほど確実ではなく、万能ではない」というのが、現時点での科学的に妥当な答えになります。順を追って説明します。

酔い止め薬に入っている代表的な成分

市販の酔い止め薬に含まれる有効成分は、大きく分けて3種類あります。

一つ目は抗コリン成分と呼ばれるスコポラミンです。脳の中で平衡感覚の情報を処理している「前庭神経核」という部分の興奮を鎮める働きがあり、海外の医学系専門サイト(Merck Manual、StatPearls)でも「現時点で最も効果が高いとされる成分」と紹介されています。日本では「トラベルミン」や「センパア」など、多くの市販薬に配合されています。

二つ目は第一世代抗ヒスタミン成分と呼ばれるジフェンヒドラミンやメクリジン、ジメンヒドリナートです。もともとアレルギーを抑える成分ですが、平衡感覚に関わる神経の興奮も抑える作用があるため、古くから酔い止めとして使われてきました。ただし眠気が出やすいという特徴があります。

三つ目はジプロフィリンという成分で、前庭神経の興奮を抑える働きがあり、めまい症状の軽減に役立つとされ、多くの製品でスコポラミンや抗ヒスタミン成分と組み合わせて配合されています。

興味深いことに、日本の一部の市販薬メーカーは、パッケージや商品説明の中で「ゲーム酔い・3D酔いの予防・緩和にも」と明記するようになっています。これは、ゲームやVRによる酔いに悩む人が増えてきたことを示す一つの証拠と言えるでしょう。

では実際の効果はどうなのか

ここからが本題です。国際的な医学情報データベースであるコクランレビュー(世界中の臨床試験を集めて信頼性を評価する、医療分野で最も権威のある系統的レビューの一つです)の中に、抗ヒスタミン薬の効果を検証したものがあります。この報告によると、抗ヒスタミン薬は乗り物酔いの「予防」については一定の効果が認められる一方で、「すでに酔ってしまった症状を治療する」効果を検証した質の高い研究はほとんど見つからなかったとされています。つまり酔ってから飲むより、酔う前に予防的に飲むほうが理にかなっているというわけです。

また、医療従事者向けの情報サイトであるStatPearlsには、より踏み込んだ指摘があります。眠気の少ない新しいタイプの抗ヒスタミン薬(花粉症薬などでよく使われるもの)は、動揺病に対してはほとんど効果がないことが研究で示されているというのです。理由として、酔い止めとして効果を発揮するには、脳の中枢神経に直接働きかける必要があるのに対し、眠気の少ないタイプの薬は主に体の末梢(脳の外側)で作用するため、平衡感覚の中枢にまで十分に届かないからだと説明されています。逆に言えば、眠気が出やすい第一世代の成分ほど、酔い止めとしての効果は高い傾向にあるということになります。

そして、ここが3D酔いを考えるうえで最も重要なポイントです。これらの酔い止め薬は、いずれも「前庭神経」つまり耳の奥の平衡感覚に関わる神経の興奮を鎮めることで効果を発揮する薬です。しかし第2章で説明した通り、3D酔いの根本原因は「視覚からの情報過多」であり、平衡感覚そのものが過剰に興奮しているわけではありません。むしろ平衡感覚は「動いていない」と正しく働いています。

つまり酔い止め薬は、酔いの結果として生じる吐き気やめまいといった「症状」を和らげる効果はある程度期待できるものの、3D酔いの根本原因である「視覚と平衡感覚のズレ」そのものを解消してくれるわけではないのです。乗り物酔いに対するほどダイレクトな効果は期待しにくい、というのが複数の医学系情報源から読み取れる、誠実な結論と言えるでしょう。

実際、軍のパイロット訓練プログラムに関する研究レビューでも「酔い止め薬は視界がぼやける、眠くなるといった副作用があるため、パイロットには服用を禁止し、代わりに後述する『慣れ』のトレーニングを重視している」という記述があり、少なくとも専門性の高い現場では、薬に頼りきらない対策が優先されている実態がうかがえます。

なお、酔い止め薬の開発は今も進んでいます。海外では、実際に太平洋上で船に乗ってもらい効果を検証するという大掛かりな臨床試験(モーション・シフノス試験)を通じて、トラディピタントという、これまでとは全く異なる仕組み(NK1受容体拮抗薬という、脳の嘔吐中枢に直接働きかけるタイプの成分)を持つ新しい酔い止め成分の研究も進められています。現時点ではまだ広く市販されている段階ではありませんが、将来的には眠気の少ない、より根本的な酔い止め薬が登場する可能性もあります。

結論 酔い止め薬とのつき合い方

以上をまとめると、酔い止め薬は3D酔いに対して「無意味」というわけでは決してありませんが、「これさえ飲んでおけば絶対に酔わない」と過信するのも禁物、というのが正直なところです。プレイ前の予防的な服用によって症状が軽くなる可能性は十分にありますので、試してみる価値はあります。ただし眠気などの副作用には十分注意し、用法・用量を守って使用することが大切です。持病がある方や、他の薬を服用中の方は、自己判断せず薬剤師や医師に相談してから使うようにしてください。

第4章 3D酔いはどれくらいの時間で治まるのか

ゲームをやめてソファに横になったあと、3D酔いはどのくらいで良くなるのでしょうか。

多くの研究に共通しているのは、プレイをやめてヘッドセットを外したり画面から離れたりすると、症状は時間とともに自然に軽減していく(この現象は研究上「ナチュラル・ディケイ」つまり自然減衰と呼ばれます)ということです。ある研究では、VR体験の終了後に何もせず休んだグループと、簡単な手作業を行ったグループを比較し、どちらも時間の経過とともに着実に症状が改善していくことが確認されています。個人差はありますが、軽い吐き気やめまいといった急性の症状であれば、数十分程度で落ち着くケースが多いとされています。

ただし、ここで注意しておきたい重要なポイントがあります。それは「見た目には元気になったように感じても、実は体の中では影響が残っている場合がある」ということです。

2024年から2025年にかけて発表された比較的新しい研究では、VR酔いを経験した人の唾液中のストレスホルモン(コルチゾール)の値が、体感的な症状のピークよりも遅れて上昇し、その後も長く高い状態が続くことが報告されています。さらに、酔いを経験したあとには、脳の作業記憶(一時的に情報を頭の中に保持しながら作業する能力)のパフォーマンスが低下することも確認されました。つまり「もう気持ち悪さは治まったから大丈夫」と自分では感じていても、集中力や判断力といった認知機能には、しばらく影響が残っている可能性があるということです。

これは決して大げさな話ではありません。実際、多くのVR・ゲーム機メーカーの公式な注意書きには「VR体験の後、症状が完全になくなるまでは、車の運転やバランス・手と目の協調が必要な作業を行わないでください」といった趣旨の警告が明記されています。海外の大学のVR講義資料でも、VRセッションのあとは少なくとも30分から45分程度、車の運転を控えることが推奨されています。3D酔いは「気持ち悪さが消えたら終わり」ではなく、体の奥ではもう少し長く影響が続いている可能性がある、ということを覚えておくとよいでしょう。

また、動揺病の研究では「ソパイト症候群」と呼ばれる現象も知られています。これは強い吐き気こそないものの、なんとなくだるい、眠い、やる気が出ないといった、うつ状態に似た倦怠感が、酔いを経験したあと長く続く症状のことです。ゲームのあと「気持ち悪さはないのに、なぜかずっと体がだるい」と感じた経験がある人は、このソパイト症候群が関係している可能性があります。

第5章 3D酔いに「慣れる」ことはできるのか

「最初は酔っていたけれど、同じゲームを続けているうちにだんだん平気になった」という話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。これは気のせいではなく、科学的にもしっかりと裏付けられた現象です。

アメリカのアイオワ州立大学の研究チームは、VRゲームを4日間にわたって繰り返しプレイしてもらう実験を行い、この「繰り返しの体験によって酔いが軽減していく現象」を「CARE(Cybersickness Abatement from Repeated Exposure、繰り返し体験による酔いの減衰)」と名付けて詳しく調べています。その結果、同じVRゲームを複数日にわたって繰り返しプレイすることで、明確に酔いの症状が軽くなっていくことが確認されました。さらに興味深いことに、あるゲームで身につけた「慣れ」の効果は、操作方法や世界観が異なる別のVRゲームに切り替えても、ある程度は引き継がれることも報告されています。

この「慣れ」の仕組みは、脳のレベルでも確認されています。VR体験を繰り返した後の人の平衡感覚を調べた研究では、耳の奥からの情報に対する脳の反応(専門的には前庭動眼反射と呼ばれます)が体験前より弱くなっていることがわかりました。これは、脳が「今回は視覚情報のほうを信用しよう、耳からの情報はあてにならない場面が多いようだ」と学習し、感覚の重みづけを自動的に調整していることを意味します。つまり3D酔いへの「慣れ」とは、根性論やただの気合いの問題ではなく、脳が経験を通じて情報の処理の仕方を柔軟に調整していく、立派な学習プロセスなのです。

ただし、この慣れには時間がかかることも研究から明らかになっています。1回酔っただけで劇的に改善することは少なく、数日間にわたって2回以上プレイを繰り返すことで、ようやく効果がはっきり現れてくるとされています。逆に、セッションとセッションの間隔を空けすぎると、せっかく身についた耐性が薄れてしまう可能性も指摘されています。少しずつでもいいので、短い時間からコンスタントにプレイを続けることが、酔いにくい体をつくる近道と言えそうです。

実際、軍のパイロット訓練の現場では、副作用のある酔い止め薬よりも、この「慣れ」を活用した訓練プログラムが好まれており、成功率は85%を超えるという報告もあります。時間はかかるものの、副作用がなく根本的な体質改善につながるという点で、非常に理にかなった方法だと言えるでしょう。

とはいえ、すべての人が同じように「慣れ」で克服できるわけではないという点にも触れておく必要があります。ストレスレベルが高い人ほど3D酔いの症状が出やすい傾向があることを示した研究や、女性、子ども、片頭痛を持つ人は一般的に動揺病への感受性が高いとされる報告もあります。個人差があることを前提に、「自分は人より少し酔いやすいタイプなのだ」と受け止めたうえで、無理のないペースで少しずつ慣らしていく姿勢が大切です。

第6章 海外の最新研究に学ぶ、薬に頼らない酔い対策

ここまで見てきたように、酔い止め薬だけに頼るのではなく、他の方法もあわせて実践することが、3D酔い対策の基本になります。この章では、日本のブログや記事ではあまり紹介されていない、海外の学術論文で報告されているユニークな対策をいくつか紹介します。

ガムを噛むだけで酔いが軽減するという研究

ドイツのフラウンホーファー研究所とマインツ大学の共同研究チームが2022年に発表した実験では、VR体験中にガムを噛み続けたグループは、噛まなかったグループに比べて、明らかに酔いの症状が軽かったことが報告されています。研究チームは、ガムを噛む動作が耳の後ろにある骨(乳様突起)への振動刺激として作用することに加え、心地よい味覚が意識を心地よい方向にそらす効果を持つため、二重の仕組みで症状を和らげているのではないかと考察しています。道具も薬も不要で、今すぐ誰でも試せる対策として、非常に実用性の高い研究結果だと言えるでしょう。

視野を意図的に狭くする「視野角制限」

人間は視界の周辺部分(周辺視野)の動きに特に敏感に反応してベクション(自分が動いているという錯覚)を感じるとされています。そこで海外のVR研究では、画面の周辺部分を意図的に暗くしたりぼかしたりして視野を狭める「視野角制限(FOV制限)」という手法が古くから研究されており、視覚から入ってくる動きの情報量そのものを減らすことで、酔いを大きく軽減できることが繰り返し確認されています。実際に多くのVRゲームには、移動時だけ画面の端を黒くする「トンネリング」や「ビネット」と呼ばれる機能が標準搭載されるようになっているのは、こうした研究の成果が反映されているためです。

姿勢をそろえることの効果

比較的新しい研究では、画面内のキャラクターの姿勢と、実際にプレイしている自分の姿勢を一致させる(たとえばキャラクターが体を傾けている場面では自分も同じ方向に少し体を傾けてみる)ことで、酔いの症状が軽減する可能性が示されています。逆に、長時間同じ姿勢を崩さずに座り続けることは、酔いを蓄積させやすいことも報告されており、時々姿勢を変えたり、休憩を挟んで体を動かしたりすることが有効だと考えられます。

誰かと一緒にプレイすることの意外な効果

VR空間の中で他の人と一緒に作業をする「社会的な交流」がある状況では、一人でプレイするよりも酔いの症状が軽くなる可能性を示した研究もあります。この効果はプレイ開始直後よりも、ある程度の時間が経過してから現れやすいとされており、友達とのオンラインプレイやボイスチャットをしながらのプレイが、思わぬ酔い対策になっているのかもしれません。

視線を一点に集中させる

画面のあちこちに視線を動かすのではなく、画面の中心付近やキャラクターの背中など、比較的動きの少ない一点に視線を集中させることで、視覚に入ってくる情報量をコントロールし、酔いを軽減できる可能性を示した研究もあります。三人称視点のアクションゲームで、あえて自キャラクターの背中を見つめながらプレイすると楽になるという体感を持つ人がいるのも、こうした仕組みと関係しているのかもしれません。

効果がはっきりしないものにも要注意

一方で、乗り物酔い対策の定番として知られる生姜(ジンジャー)については、胃の不快感を和らげる効果を示した研究がある一方で、まったく効果が確認できなかったとする研究も存在し、現時点では評価が分かれています。生姜湯や生姜系のサプリメントを試すこと自体は害が少なく試してみる価値はありますが、「これを飲めば絶対に平気」と過信しないほうがよいでしょう。

第7章 任天堂・ソニー・Metaが示す公式の安全ガイドライン

ゲーム機やVR機器のメーカー各社も、3D酔いやVR酔いのリスクを公式に認め、取扱説明書やサポートサイトで具体的な注意喚起を行っています。ここでは代表的なメーカーの公式情報を紹介します。

任天堂は、Nintendo SwitchのVRモードについて公式サポートページで「VRモードでゲームをプレイする場合、体調により乗り物酔いに似た症状が現れる場合がある」としたうえで、「慣れるまでは少しずつプレイし、少しでも気分がすぐれない場合はゲームを中断して休憩をとること」を推奨しています。ゴーグルが頭部に固定されない手持ち式である点も、いつでもすぐに中断できる工夫として案内されています。

ソニーはPlayStation VR、PlayStation VR2の健康と安全に関する警告の中で、12歳未満の子どもの使用を推奨していないこと、めまいや吐き気、方向感覚の喪失、目のかすみなどの症状が出た場合はただちに使用を中止してヘッドセットを外すこと、症状が完全になくなるまではバランスや協調運動が必要な作業を避けて休むこと、長時間の連続使用を避けて頻繁に休憩を取ること、疲れている・めまいがする・お酒や薬の影響下にあるといった状態では使用しないことなどを、繰り返し明記しています。

Meta Quest(旧Oculus)についても、大学のVR関連ガイドなどで紹介されている健康警告の中で、発作の既往がある人、妊娠中の人、高齢者、ペースメーカーなどの医療機器を使用している人、視覚や精神に関する疾患がある人などは、使用前に医師に相談するよう案内されています。

こうしたメーカー各社の姿勢からもわかる通り、3D酔いやVR酔いは「一部の体質が弱い人だけの特殊な問題」ではなく、業界全体が公式に認識し、対策を呼びかけている一般的なリスクなのです。裏を返せば、酔ってしまったからといって、恥ずかしがったり自分を責めたりする必要はまったくない、ということでもあります。

第8章 今日からできる3D酔い対策 実践編まとめ

ここまでの内容を踏まえて、今日からすぐに実践できる対策を整理しておきます。

まず体調管理の面では、睡眠不足の状態や、空腹すぎる状態・満腹すぎる状態でのプレイは避けましょう。自律神経が乱れやすく、酔いを感じやすくなります。

薬を使う場合は、酔ってから飲むよりも、プレイを始める30分ほど前に予防的に服用するほうが効果的とされています。眠気の少ないタイプを選びたい場合は、成分表示を確認したうえで薬剤師に相談してみるとよいでしょう。

ゲーム側の設定では、可能であれば視野角(FOV)を狭める設定や、移動時に画面の端を暗くする「ビネット」機能をオンにしてみてください。感度の高すぎるカメラ操作やジャイロ操作の感度を少し落とすことも効果的です。

プレイ環境としては、部屋を明るくして換気をよくし、できれば少し距離を取って画面を見る、あるいは画面を小さく表示できる携帯モードを活用するのもおすすめです。ガムを噛みながらプレイするのも、手軽で科学的な裏付けのある方法です。

休憩の取り方としては、20分から30分に一度は必ず画面から目を離して休憩を取り、少しでも気分が悪くなったらその時点で中断することが基本です。プレイ後、症状が完全に消えるまでは車の運転や重要な作業は避け、体を十分に休ませてください。

そして長期的な視点では、無理のない短い時間から少しずつプレイを継続し、体に「この映像は安全だ」と学習させていくことが、根本的な体質改善につながります。焦らず、自分のペースで慣らしていきましょう。

まとめ 3D酔いとの上手な付き合い方

ここまで、3D酔いがなぜ起こるのかという仕組みから、乗り物酔いとの違い、酔い止め薬の本当の効果、酔いが治まるまでの時間、そして「慣れ」による克服の可能性まで、幅広く見てきました。

改めて振り返ると、3D酔いは「視覚は動いていると感じているのに、体は動いていないと感じている」という、乗り物酔いとは正反対の感覚のズレによって起こる、ごく自然な体の防御反応でした。市販の酔い止め薬は、この不調による吐き気やめまいといった症状を和らげる助けにはなりますが、視覚と平衡感覚のズレそのものを根本から解消してくれる魔法の薬ではありません。だからこそ、薬だけに頼るのではなく、ゲームの設定を見直したり、ガムを噛んでみたり、こまめに休憩を取ったりといった、複数の対策を組み合わせることが大切になります。

そして何より心強いのは、3D酔いは多くの場合、少しずつ体を慣らしていくことで軽減していくという科学的な裏付けがあるという事実です。今日は10分しかプレイできなかったとしても、それは決して失敗ではありません。脳が新しい映像体験を学習している、大切なプロセスの真っ最中なのです。焦らず、自分の体調と相談しながら、無理のないペースで少しずつゲームやVRとのつき合い方を見つけていってください。この記事が、あなたの快適なゲームライフの一助になれば幸いです。


参考文献・参照元

  • Reason, J. T. and Brand, J. J. によるセンサリーコンフリクト理論を紹介したFrontiers in Psychology掲載レビュー「Vection and visually induced motion sickness: how are they related?」
  • 「Mismatch of Visual-Vestibular Information in Virtual Reality: Is Motion Sickness Part of the Brain’s Attempt to Reduce the Prediction Error?」Frontiers in Human Neuroscience
  • 「Are you feeling sick? A systematic literature review of cybersickness in virtual reality」ACM Computing Surveys
  • 「Clinical predictors of cybersickness in virtual reality (VR) among highly stressed people」PMC
  • Cochrane Library「Antihistamines for motion sickness」(Karrim, N. et al., 2022)
  • Cochrane Library「Scopolamine for preventing and treating motion sickness」
  • Merck Manual Professional Edition「Motion Sickness」
  • StatPearls(NCBI Bookshelf)「Motion Sickness」
  • 「Nutritional and Behavioral Countermeasures as Medication Approaches to Relieve Motion Sickness: A Comprehensive Review」MDPI Nutrients誌
  • Kaufeld, M. et al.「Chewing gum reduces visually induced motion sickness」Experimental Brain Research誌(2022年)
  • 「Cybersickness Abatement from Repeated Exposure to VR with Reduced Discomfort」および関連するアイオワ州立大学のCARE研究シリーズ
  • 「Visual and vestibular reweighting after cyber- and space-sickness」
  • 「Effects of social interaction on virtual reality cybersickness」ScienceDirect
  • 「Restricting the distribution of visual attention reduces cybersickness」PMC
  • 「Visually Induced Motion Sickness Susceptibility and Recovery Based on Four Mitigation Techniques」Frontiers in Virtual Reality
  • 「Do Not Immerse and Drive? Prolonged Effects of Cybersickness on Physiological Stress Markers And Cognitive Performance」(プレプリント)
  • Motion Sifnos Study(トラディピタントの動揺病治療効果に関する臨床試験プレプリント)
  • 任天堂サポート公式サイト「Nintendo Switchの『VRモード(3D映像)』についてお伝えしたいこと」
  • ソニー・PlayStation公式「Health Warning」および各種PS VR / PS VR2取扱説明書
  • エーザイ株式会社「トラベルミン」製品情報ページ

免責事項

この記事は、公開されている論文や医療系情報サイト、各メーカーの公式情報などをもとに、現時点で得られる知見を筆者なりにまとめたものであり、医学的な診断や治療を目的としたものではありません。個人の体質や健康状態によって症状の出方や対策の効果は大きく異なります。持病をお持ちの方、他の薬を服用中の方、妊娠中の方、体調に不安のある方は、自己判断で対策を実践する前に、必ず医師や薬剤師にご相談ください。本記事の内容を実践されたことによって生じたいかなる健康上の不調や結果についても、筆者は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

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この記事を書いた人

手帳が続かない・考えすぎて動けない、そんな時期を何度も経験してきました。
手帳歴20年以上、GTD・振り返り・小さな習慣を実践しながら、少しずつ自分なりの整理術を見つけてきた人間です。
「頑張りすぎない改善」をテーマに、手帳・習慣化・心理・オカルト・日常の気になることを丁寧に発信しています。

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