はじめに — ガムのパッケージを見たことがありますか?
コンビニのレジ横、スーパーのお菓子コーナー、薬局の棚……。ガムはどこにでも売っている身近なお菓子です。ところで、ガムのパッケージをじっくり眺めてみたことはあるでしょうか。
チョコレートや飴なら必ず「賞味期限:○○年○月」と印刷されているのに、ガムのパッケージにはそれが書かれていない、あるいはあっても非常に控えめなケースが多いことに気づきます。
「これって食べても大丈夫なの?」「引っ越しのときに出てきた古いガム、捨てるべき?」と疑問に思ったことがある方は少なくないはずです。
この記事では、ガムに賞味期限がない(あるいはあっても意味が薄い)理由を科学的に解説するとともに、実際に何年後まで食べられるのか、保存のコツ、同様に長持ちする食品との比較、ガムが脳や健康に与える意外な効果、そして世界のガム市場の最新トレンドまでを、日本語の記事ではあまり紹介されていない海外の文献や最新研究も交えながら、徹底的にまとめます。
1. ガムに賞味期限がない理由 — 科学的に解説
賞味期限とは何か
そもそも「賞味期限」とは、食品が品質を保った状態で安全においしく食べられる期限のことです。食品が腐敗・変質するのは、主に次の3つの原因によります。
- 水分(湿気)による細菌・カビの繁殖
- 酸化による成分の劣化
- 光や熱による化学変化
ガムが賞味期限を必要としない理由は、この3つすべてに対して非常に強い耐性を持っているためです。
ガムの成分が「腐らない理由」
ガムの成分は大きく分けて次のものから構成されています。
ガムベース(Gum Base)
ガムの「噛み応え」を生み出す主成分です。現代のガムベースは、ポリエチレン(レジ袋の原料)やポリ酢酸ビニル(白いのり・接着剤の成分)、ブチルゴム(タイヤの内張りにも使われる合成ゴム)などの合成ポリマー、あるいは天然ゴムやロジン(松脂)など、水をはじく「疎水性(そすいせい)」の高分子素材で作られています。
このポリマーの性質がポイントで、水分をほとんど含まず、水分を寄せ付けないため、細菌やカビが繁殖する土台がそもそも存在しません。また、化学的に非常に安定しており、酸素や熱とも反応しにくい性質を持ちます。
甘味料(砂糖・代替甘味料)
砂糖やキシリトール、アスパルテームなどが使われます。砂糖は高濃度になると細菌の水分を奪い、細菌の繁殖を妨げるはたらきがあります。これは塩漬けや砂糖漬けの食品が長持ちする原理と同じです。
軟化剤・保存料
植物性グリセリンや酢酸ビニルなどの軟化剤がガムに適度な柔らかさをもたらし、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)などの酸化防止剤が酸化による劣化を防ぎます。
フレーバー(香料)
ミントや果実系などの香料は高度に凝縮されており、少量でも強い香りを持ちます。ただし、これが時間経過とともに最も早く劣化する部分でもあります。
「水分がない」ことが最大の鍵
食品が腐る根本的な原因は水分です。水分があることで細菌が増殖し、酵素が活性化し、化学反応が起こります。ガムの水分含有量は極端に低く、一般的な食品とは比べものになりません。
国際チューインガム協会(International Chewing Gum Association、ICGA)は、「チューインガムは非常に安定した製品であり、その主な理由は水分含有量の低さにある」と公式に述べています。また、米国食品医薬品局(FDA)は、ガムにおける「賞味期限」という用語の使用を厳格には規制しておらず、多くの国でガムに賞味期限の記載は義務付けられていません。
日本では食品衛生法に基づく表示が求められていますが、ガムの性質上、法的に義務付けられる「消費期限」(食べると危険になる期限)は設定されておらず、任意で「賞味期限」を記載しているメーカーが多い、というのが実態です。
古代の「ガム」が9,000年以上存在した事実
ガムとしての人類の噛み行為は、9,000年以上の歴史を持ちます。古代スカンジナビア人が白樺の樹皮タールを噛んでいた痕跡が化石化した状態で発見されており、マヤ文明やアステカ文明の人々はサポジラの木から採れる天然ゴム「チクル(chicle)」を噛んでいました。古代ギリシャ人は「マスチック」というニシキモチノキの樹液を噛んでいたことがスミソニアン誌に記録されています。
これらの天然樹脂が何千年もの時を経ても一定の形状を保っていたことは、「ガムの素材は時間に強い」という事実を、現代科学が解明する遥か以前から証明していたともいえます。
2. ガムは実際に何年後まで食べられる?
一般的な目安
多くのガムメーカーは、製造から約2年間が「品質を保てる期間の目安」としています。これは安全上の問題というより、風味や食感の品質保証の観点からのものです。実際には適切な保存状態であれば、2年をはるかに超えても安全に噛むことができます。
食品成分の研究者やガム専門サイトのまとめによれば、ガムのベース成分(食品グレードのポリマー)は水素と炭素から構成されており、分解されにくい安定した構造を持つため、5年以上にわたって品質の核心部分が維持されるとされています。
時間が経つとどう変わるか
安全性は長く保たれる一方で、時間の経過とともに以下のような変化が起こります。
風味の劣化
香料は最も早く揮発または変化します。ミント系の爽やかさは比較的早く薄れ、時間が経つほど「味がしない」「まずい」と感じるようになります。これは「安全でなくなった」のではなく、「おいしくなくなった」だけです。
食感の変化
時間が経ったガムは硬くなり、噛み始めは固くパリパリとした感触になることがあります。特に温度変化にさらされたものや、湿気を吸ったものは食感が顕著に変わります。
見た目の変化
コーティングが剥がれたり、表面の色が変わったりすることがあります。
これらはすべて「品質の劣化」であり、「安全性の問題」ではありません。
食べてはいけないガムのサイン
長期保存のガムでも、以下の場合は食べるのを控えるべきです。
- パッケージが破れていたり、汚れていたりする場合
- ガムが変色していたり、異臭がする場合
- パッケージが高温・多湿の環境に長期間さらされていた場合
外部の環境汚染がなければ、ガムそのものが食中毒を起こすような腐敗をすることは、構造的にほぼ起こりません。
保存環境が命運を分ける
ガムを長期間おいしく保つためのポイントは以下の通りです。
- 直射日光を避けた涼しい場所に保管する
- 高温(特に35℃以上)にさらさない(車のダッシュボードはNG)
- 密封された元のパッケージのまま保管する
- 湿気の多い場所(洗面台の近くなど)には置かない
3. ガムと同様に賞味期限がない(非常に長持ちする)食品
ガムだけが「特別に長持ちする食品」というわけではありません。実は自然界や食品科学の観点から、理論上ほぼ永久に劣化しない食品がいくつか存在します。これらの共通点は「水分が極端に少ない」「酸性が高い」「細菌が繁殖しにくい化学的環境を持つ」の3点です。
はちみつ
最も有名な「腐らない食品」です。エジプトの古代遺跡から3,000年以上前のはちみつが発掘され、今なお食べられる状態であったことが確認されています。はちみつは水分含有量が極めて低く(17%以下)、強い酸性(pH3〜4.5)を持ち、過酸化水素を微量に生成する酵素を含んでいます。これらの要因が組み合わさることで、細菌が生きられない環境が作られます。
塩
塩(塩化ナトリウム)は鉱物であり、そもそも生物が分解できる有機物ではありません。水分を吸収しない限り、理論的には永遠に劣化しません。人類が何千年も前から食品の保存に塩を使ってきたのは、この特性によるものです。ただし、ヨード添加塩(ヨウ素が入った塩)は時間とともにヨウ素が揮発するため、品質の維持には限界があります。
白米(精白米)
玄米と異なり、糠(ぬか)と胚芽を取り除いた白米は油分が少なく、酸素のない密閉容器で低温保存した場合、30年以上も栄養価と風味を保てることがユタ州立大学の研究で示されています。
砂糖・純粋なメープルシロップ
高濃度の糖は細菌の繁殖を防ぐ作用があります。砂糖自体は理論上、無期限に保存が可能です。純粋なメープルシロップも未開封の状態であれば、事実上無期限に保持されるとされています。
酢(純粋なもの)
酢は強い酸性のため、細菌が生きられない環境です。開封後も冷蔵不要で長期間使用できます。
純粋なバニラエクストラクト(バニラエッセンス)
アルコールが高濃度で含まれているため、未開封であれば無期限に保存できます。
これらの食品と比較したとき、ガムもまた「水分ゼロ・化学的安定性が高い」という点で、同じカテゴリに属する食品といえます。
4. ガムの歴史 — 古代の樹脂から現代の合成ポリマーまで
人類とガムの9,000年史
チューインガムの歴史は、現代のガムが生まれる遥か以前にさかのぼります。北欧の考古学的調査では、約9,000年前の白樺のタールを噛んだ痕跡が残る塊が発見されています。これは史上最古の「ガム」とみなされています。
マヤ文明やアステカ文明の人々は、サポジラの木(sapodilla tree)から採れる天然ラテックス「チクル」を噛んでいました。このチクルは口臭予防や喉の渇きを和らげる目的で使われ、チクルを噛む行為は儀式的・社交的な意味も持っていました。
古代ギリシャ人は、ニシキモチノキ(mastic tree)の樹脂「マスチック」を噛む習慣を持っており、これが現在でも地中海地方のガムに使われる「マスチックガム」の原型です。北米の先住民族は、スプルース(えぞ松)の樹脂を噛む習慣を持っており、ヨーロッパ系移民がアメリカ大陸に渡ったのちにこれを受け継ぎました。
商業ガムの誕生(1840年代〜)
商業用チューインガムの歴史は1848年に始まります。ジョン・カーティス(John Bacon Curtis)がスプルース(えぞ松)の樹脂を砂糖と混ぜて棒状にした「ステート・オブ・メイン・ピュア・スプルース・ガム(State of Maine Pure Spruce Gum)」を製造・販売したのが最初の商業ガムとされています。その後、彼の弟(または父)とともに初のチューインガム工場を設立し、機械による大量生産を実現しました。
1869年には歯科医師のウィリアム・センプル(William F. Semple)がチューインガムの特許を取得しました。ただし彼は実際には販売せず、主成分はなんとチョークと木炭という、現代の感覚では驚くべき処方でした。当時の「歯を強化し清潔に保つための医療品」という位置付けがうかがえます。
同年1869年、メキシコの元大統領アントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ(Antonio López de Santa Anna)がニューヨークに亡命する際、大量のチクル(sapodilla樹液)を持ち込みました。彼はチクルをゴムの代替品としてタイヤ製造に使う計画を持っていましたが、その実験に失敗した実業家のトーマス・アダムズ(Thomas Adams)が、余ったチクルを噛むガムとして販売することを思いつきました。アダムズは1871年にガム製造機械の特許を取得し、「ブラックジャック」というリコリス風味のガムで人気を博しました。
1880年代には、ウィリアム・ホワイトがコーンシロップとペパーミント香料を加えた「ユカタン・ガム(Yucatan Gum)」を開発。ペパーミントフレーバーが噛んでいる間も持続しやすいことを発見し、ミント系ガムの礎を築きました。
1914年にはウィリアム・リグレー(William Wrigley Jr.)がダブルミントを発売。その後リグレーブランドはカナダ(1910年)、オーストラリア(1915年)、イギリス(1927年)、ニュージーランド(1939年)へと世界展開し、「ガム=リグレー」のイメージが世界中に広まります。
1928年には、フリアー・ガム社の経理担当者だったウォルター・ダイマー(Walter Diemer)が偶然「ベタつかないガム」を作ることに成功し、これをバブルガムとして発売。「ダブルバブル(Double Bubble)」として爆発的に売れました。彼のバブルガムが赤っぽいピンク色だったのは、その時たまたたま手元にあった染料がそれだけだったからという逸話が残っています。
第二次世界大戦後 — 合成ポリマーへの転換
戦後、チクルの供給量が世界的な需要に追いつかなくなったことと、採取コストの上昇が相まって、チクルは合成ポリマーへと置き換えられていきます。
現代のガムベースには、スーパーの袋に使われるポリエチレン、白いのり(接着剤)に使われるポリ酢酸ビニル、タイヤの内張りにも使われるブチルゴムなど、聞けば「え、それを食べているの?」と驚くような素材が使われています。ただし、これらはすべて「食品グレード」の認証を受けたものであり、口の中では分解されずにそのまま噛み続けられるという特性が、ガムとしての機能を果たしています。
5. ガムはどうやって作られる? 製造プロセスをわかりやすく解説
原材料の準備
ガムの製造は、まず各成分の品質検査から始まります。ガム工場は非常に清潔な環境で運営されており、製造ラインは人の手に触れないよう設計されています。
天然ゴム(チクル)を使う場合は、岩石・泥・不純物の混入がないか検査されます。合成ポリマーを使う場合は、細かな粒状(ペレット)として工場に届けられます。
ガムベースの溶解・混合
ガムベースのペレットは粗く砕かれたのち、温かい部屋で最大2日間乾燥させられます。その後、約115℃のドラム型の大きな釜で加熱・溶解され、濃いシロップ状になります。この溶液は金属製のフィルターで不純物を除去され、遠心分離機にかけてさらに精製されます。
甘味料・香料・軟化剤の投入と混練
精製されたガムベースに、砂糖(またはキシリトールなどの代替甘味料)、コーンシロップ、グリセリン(軟化剤)、そして香料が加えられます。これらはゆっくり回転する大型の混練機(ミキサー)で均一になるまで混ぜ合わせられます。完成した粘度の高い塊は、広げて冷却されます。
成形・コーティング
冷却されたガムの塊は、用途に応じてさまざまな形状に加工されます。
スティックガムやタブレット型のガムは、薄く伸ばしてシート状にしてから切り出されます(シーティング法)。ペレット型のガムは、ガムベースを丸めた後、糖衣コーティングマシンで何層にもわたってコーティングを施されます。センターフィル型(中に液体が入っているもの)は、ガムベースを管状に押し出し(エクスチュード)、内部に液体を充填した後、一口サイズに切断されます。
粒状ガム(ガムボール)は、丸形に成形された後、色付きの食用色素を水に溶かしたものを12層以上スプレーで吹き付けて色づけされます。最後に光沢を出すためのコーティングが施され、乾燥・包装されます。
包装・出荷
ガムは自動包装機で個包装され、箱詰めされて出荷されます。生産ラインはすべて自動化されており、製品が人の手に触れる機会を最小限に抑えています。
6. ガムの健康効果 — 最新研究が明らかにしたこと
ガムを噛む行為(咀嚼)は、単なる口内の作業ではなく、脳・身体の多くの部位に影響を与えることが、近年の脳科学研究によって明らかにされています。
集中力・注意力の向上
2024年、ポーランドの研究者グループによる脳神経科学的な研究が注目を集めました。脳神経イメージング(fMRI・fNIRS・EEG)を使った32の研究を統合したシステマティックレビュー(2025年に医学誌MDPIに掲載)によれば、ガムを噛むという行為は大脳の感覚運動野・運動野・視床・小脳といった広範な領域を活性化し、特に海馬と前頭前野(学習・記憶・意思決定を司る領域)への血流を増加させることが確認されました。
ガムを噛むことが覚醒状態・注意力の維持に与える効果については、対象となった22件の研究のうち14件(64%)がポジティブな効果を示しており、特に「持続的注意力(sustained attention)」の改善が顕著でした。
これは「ガムを噛むと眠気が防げる」「仕事や勉強のパフォーマンスが上がる」と感じる人の経験を、科学的に裏付けるものです。
ストレス・不安の軽減
ガムを噛む行為がストレスホルモンのコントロールに関与することも示されています。
オーストラリアのニューカッスル大学の研究によれば、咀嚼は視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の過活動を抑制し、ストレスホルモン(グルココルチコイド)の分泌量を適切にコントロールする効果があると報告されています。HPA軸は長期的なストレスに関与する身体の調節機能で、これが乱れると海馬の機能障害や情報処理能力の低下につながります。
また、トルコの小児病院で行われた無作為化対照試験では、ストレスのかかる状況(試験前など)においてガムを噛んだ被験者のグループが、噛まなかったグループと比較して「不安感が低く、落ち着きが高い」という結果が得られました。
認知機能の低下予防
非常に興味深いのが、「噛む力と認知症リスクの関係」です。歯の少ない高齢者ほど認知機能が低下しやすいという疫学データは以前から蓄積されていましたが、近年の研究はそのメカニズムを解明しつつあります。
歯を失うことで咀嚼能力が低下すると、海馬と前頭前野への血流が減少し、空間学習・記憶の定着・意思決定といった高次認知機能が損なわれることが動物実験でも確認されています。また、歯の喪失はアルツハイマー病の疫学的リスク因子であるという研究結果も蓄積されています。
これを逆から考えると、ガムを習慣的に噛むことで咀嚼刺激を維持することが、脳の血流を促進し、加齢に伴う認知機能の低下を穏やかに抑制する可能性があります。
口腔内の健康効果(虫歯予防)
キシリトール配合のガムが歯に良い、というのは多くの方がご存じかと思います。キシリトールは、虫歯の主な原因菌である「ミュータンス連鎖球菌(Streptococcus mutans)」が歯に付着するのを妨げ、酸を産生する代謝経路をブロックします。
さらに、砂糖不使用のガムを噛むと唾液の分泌が促進されます。唾液にはカルシウムやフッ素などの歯のエナメル質を強化するミネラルが含まれており、口腔内を中性に保ち、虫歯菌が活動しにくい環境を作ります。
このため、一部の歯科医師はフッ素入り・キシリトール配合のガムを食後に噛むことを積極的に勧めています。
食欲コントロール・体重管理
食事前にガムを噛むと、食事の摂取量を減らし肥満予防につながる可能性があることも報告されています。これは脳の神経回路(特に視床下部の摂食制御センター)が咀嚼によって刺激され、食欲を調整するホルモンのバランスに影響するためと考えられています。
7. ガムを噛むことの心理的メリット
ガムは「噛む」という行為そのものが、心理的に様々な良い効果をもたらすことが複数の研究から示されています。
試験・仕事のパフォーマンス向上
2019年にPubMed(医学・生命科学の世界最大のデータベース)に掲載されたトルコの無作為化対照試験では、「ガムを噛むことは、ストレスや不安を減らすことで集中力を高め、短期記憶の改善に寄与する」という結果が得られました。さらに「ガムを噛む習慣のある学生グループは、噛まなかったグループと比較して試験の成績が統計的に有意に高かった」とも報告されています。
試験前の緊張した状面でガムを噛むことで、不安感が和らぎ、注意力が高まることは、学生や試験を控えたビジネスパーソンにとって実践しやすいコーピング(対処)戦略といえます。
「噛む」という反復動作のリラクゼーション効果
ガムを噛む行為はリズミカルな反復運動であり、これが副交感神経系を刺激してリラクゼーション効果をもたらすとも考えられています。ドーパミン神経系の活性化によって不安様行動を抑制する可能性も動物実験で示されており、これが人にも応用できるとすれば、ガムを噛むことが軽いストレス発散になるという多くの人の実感に合致します。
口さびしさ・過食の抑制
食後や間食の時間帯にガムを噛むことで、「何かを口に入れたい」という衝動を満たし、無駄な過食を防ぐという心理的効果も報告されています。特にダイエット中の方にとっては、低カロリー(多くのガムは1粒5〜10kcal程度)でこの効果が得られることは大きなメリットです。
気分の向上・気分転換
ガムを噛むことが気分の向上につながるという研究結果も複数あります。作業中の眠気防止・気分の活性化においても、カフェインなどを使わずにガムだけで同様の効果が得られることが示唆されています。長距離の運転や単調な作業において、ガムが眠気防止に使われるのは、こうした科学的な根拠があるからです。
8. 昨今のガムとグミの市場 — 日本と世界のトレンド
世界のガム市場は巨大で、成長を続けている
世界のチューインガム市場は、2024年時点で約290億ドル(約4.2兆円)規模に達しているとみられています。今後も年率約3〜4%の成長が続き、2033年には390億ドル超に達すると予測されています。北米が市場シェアの37.6%以上を占め、最大市場となっています。
注目すべきトレンドは、シュガーフリーガム(砂糖不使用ガム)の急拡大です。2024年にはシュガーフリーガムが市場全体の54.5%以上のシェアを占めており、健康意識の高まりとともにこの傾向は今後も続くと見込まれています。
また「機能性ガム」と呼ばれる新ジャンルが急速に台頭しています。コーヒーなどと同様に、ガムにカフェインやビタミン、プロバイオティクス(善玉菌)、ホワイトニング成分を配合した製品が次々に登場し、2024年にはMars Wrigleyが「マイクロカプセル化カフェイン+ビタミン配合ガム」の研究開発パイロットプログラムを開始したと報告されています。
禁煙補助としてのニコチンガムも引き続き重要なセグメントであり、東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカなど新興市場での需要拡大も著しい状況です。
2024年の輸出国別ランキングでは、トルコが輸出額4億7,500万〜5億2,000万ドルで世界最大のチューインガム輸出国となっており、アメリカ(4億2,000万〜4億6,000万ドル)、中国(3億1,000万〜3億3,500万ドル)が続いています。
環境への配慮も大きなトレンドで、2024年にはMilliwaysがプラスチック不使用の植物由来ガムを米国・フランスなどで展開を拡大し、持続可能なガムへの需要が高まっています。
日本のガム市場とグミとの競合
日本ではかつてガムはお菓子市場で確固たる地位を持っていましたが、2000年代以降はグミ(グミキャンディー)の爆発的な人気に押され、ガムの市場規模は縮小傾向にあります。
その背景には、
- グミの食感・フレーバーバリエーションの豊富さが若年層に受けていること
- ガムを吐き出す(口から出す)行為が、衛生面・マナーとして敬遠されやすくなったこと
- グミの方がSNS映えするパッケージや変わり種フレーバーが多く、話題性が高いこと
といった要因があると考えられています。
しかし一方で、世界的なトレンドである「機能性ガム」の波は日本にも到達しつつあります。口腔ケア・集中力サポート・虫歯予防といった機能性を前面に出したガムは、健康意識の高い大人層を中心に根強い支持を集めており、市場の二極化が進んでいます。
グローバルでは2022〜2023年にガム販売が前年比15%増を記録し、コロナ禍後の社会活動再開(職場復帰・学校再開・人との接触増加)に伴って口臭ケアや気分転換の需要が急回復した事実は、ガム市場の基礎的な強さを示しています。
9. まとめ — ガムは「最強の保存食」かもしれない
ガムに賞味期限がない理由は、科学的に明確です。水分をほぼ含まず、化学的に非常に安定した合成ポリマー(またはその天然類似物)をベースに作られているため、食品を腐敗・変質させる細菌の繁殖や化学反応が起こりにくいのです。
多くのメーカーが品質保証の目安として「製造から約2年」を設定していますが、これはあくまで「最もおいしく食べられる期間」の目安であり、安全面では遥かに長期にわたって問題なく噛めることが示されています。保存状態さえ良ければ、5年・10年前のガムでも危険ではありません(ただし味はほぼしないでしょう)。
さらに、ガムを噛む行為そのものが脳の血流を促進し、集中力・記憶力・ストレス耐性を高めることが最新の脳神経科学研究によって示されています。虫歯予防・唾液分泌促進・食欲コントロールなど、身体的なメリットも豊富です。
古代の人々が9,000年以上ガムを噛み続けてきたのは、単なる習慣や嗜好を超えた、人体にとって本質的な意義のある行動だったのかもしれません。
引き出しの奥から出てきた古いガムを見つけたとき、パッケージが無事で外見上問題なければ、恐る恐る噛んでみてください。風味はないかもしれませんが、少なくとも安全です。そして噛むこと自体が、あなたの脳と心にプラスをもたらしてくれるでしょう。
参考文献・情報源(外国文献)
- International Chewing Gum Association (ICGA) – 公式FAQ「Why don’t chewing gum packages list an expiration date?」
- PMC (PubMed Central) – “The Neural Correlates of Chewing Gum—A Neuroimaging Review of Its Effects on Brain Activity” (MDPI, 2025)
- University of Newcastle, Australia – “Can chewing help manage stress, pain and appetite?” (2023)
- PubMed – “Effect of chewing gum on stress, anxiety, depression, self-focused attention, and academic success” (2019)
- Tasting Table – “The Scientific Reason Chewing Gum Doesn’t Actually Expire” (2024)
- Smithsonian Magazine – A Brief History of Chewing Gum
- Tastewise – “Chewing Gum Trends in 2026” (2025)
- Maximize Market Research – Chewing Gum Market Report (2026)
- Wikipedia – “Chewing gum” (参照: 2025)
- Britannica – “Chewing gum” および “What Is Gum Made Of?”
- FoodUnfolded – “Chewing Gum: What is gum made of?”
- madehow.com – “How chewing gum is made”
- Penn State University Extension – Honey storage research
- Utah State University Extension – White rice shelf life study
- Brigham Young University – Pinto beans 30-year study


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